サンタを迎えにゆく夜

さく: ねこぽん

 目を覚ますと、1時間10分寝過ごしていた。目覚ましが鳴って、鳴りやんでも気づかないなんて、困ったものね。新しい目覚まし、買おうかしら。そんなことをぼんやりと考えながら、起き上がった。
……今日が平日でなくて、よかった。

 彼がもうすぐ、長期滞在から帰ってくる。どうしても今日中に、彼の部屋をお掃除しておきたい。できれば午前中に終わりたかったんだけど、ちょっとこの時間じゃ無理みたい。しかたないな、手早く済ませましょう。若干の手抜きは勘弁してね。

 外に出ると、吐く息が白かった。玄関にある、赤いポストの上に粉雪が積もっていた。
「昨日、降ったんだ……大丈夫かな、飛行機」
このくらいなら平気だと思うけど、でも、ほんのちょっぴり、心配。

 心配ついでに、持ち物を確かめてみようっと。
「えと。雑巾、持った。洗剤、持った。新聞紙、持った。鍵……あれ、鍵、かぎっ!」
わあ、気がついてよかった! 鍵がなかったら何にもならないじゃない!あわてて玄関にもどると、ちょこんと鍵が落ちていた。イチゴの飾りをつけた、大切な鍵。……彼の部屋の鍵。
「……ふうっ。ほんと、忘れっぽいな、私」
イチゴの飾りをつまみ上げると、ちりん、と鍵の当たる音がした。ひさしぶりに聞くその音色が、少し、さみしかった。それはつまり、今彼の部屋へ行っても、彼には会えない、って意味だもの。

 ……がちゃっ。
「あ、開いた」
あたりまえのことなんだけど、半年も開けてないと、なんだか新鮮。でも……とてもほこりっぽい。半年も人が住んでないと、こんなにもほこりっぽくなるものなんだね。
ほこりの中に、小さな額があった。写真が入ってる。
「……あ、これ」
彼と私の、ふたりが写っている写真。彼が長期滞在に出かける前の、最後のデートの時の写真。……そして、最後にキスしたときの、写真。大切にしてくれてるんだ……。すごく、うれしい。

「……なーんて、感傷に浸ってる暇、ないのね」
さあ、とっととお掃除しましょう。なんてったって、半年、誰もいないんだもの。かび臭くたって、ほこりだらけだって、おかしくないわよ。でも、こんなにほこりっぽいなんてね。げんなり。

 戸棚を開けると、なんだか古いインスタントラーメンとごはんの山。日頃の食生活が、なんとなくわかる。
「んもう、しょうがないなあ」
たまには私がいいもの食べさせなきゃ。彼ってばホント働きづめだから、こんなんじゃ、体、弱っちゃうよ。それに、賞味期限切れちゃってるのもあるし。もったいない気もするけど、思いきって捨てちゃえ。

「ん……んしょっ!」
ふだんはさわりもしないような、重たいものも、ちょっと動かしてみる。テレビとか。……あ、やっぱり、このテレビ台の下もすごいほこり。
あれ……なんか本みたいのが出てきた。
「なんだろこれ……って、きゃっ!」
わあ……え、エッチな本。
「うぅ……か、彼も男の子だからね、ね……」
なんとか自分を納得させようとするけど、やっぱりちょっと恥ずかしい。でも、写真の女の子、胸大きいなあ。彼も大きい方が好きなのかな。うーん、聞いてみようかなあ。
……そ、そんなことより、これ、どうしよう。
「……あっ」
いいこと思いついた。こんなときの私、つい茶目っ気を出してしまう。ちょうど手近に、きれいな包装紙とリボンが落ちてた。これ、去年のクリスマスのときの、ケーキの包装紙とリボンじゃない? よくとっておいたわね。でもそれが命取りだったわね。……本を包装紙でくるんで、リボンをかけて、机の上に置いた。『サンザクロースからの贈り物』って、メモを添えて。
「さ、これでよしと」
私も恥ずかしい思いしたから、あなたにもしてもらうからね。よろしく。

「……ふぅ」
そんなに広いお部屋じゃないはずなんだけど、それでもやっぱり時間がかかる。整理もされてないし。それに、いろんなところからいろんなものが出てくるし。
……その。あんな本とか。それでもどうにか、ほこりくらいはきれいにできた。荷物とかはあんまり動かせないし。あと、この小さなラックだけ。
「……あっ」
ラックを開けてみると、私宛の手紙が入っていた。『君がこの手紙をいつ読むことになるかわからないけど、いつかきっと読んでくれると信じてる。気がついてるかついてないかわからないけど、冷蔵庫にプレゼントを隠しておいた。開けてごらん』……冷蔵庫? 電気入ってないし、食べ物もないから、全然気にしてなかった。私は手紙のとおり、冷蔵庫を開けてみた。
「……え?」
小さな箱が置いてあった。それはビロードにくるまれた、ある特別なものを入れる箱。『ぼくの心をそこに込めた。受け取ってくれるかな? ……こんど帰ってくるときに、その返事が、聞きたい』開けてみると、もっとも美しいといわれる輝きが、そこにあった。
「……誓います」
なんだか自然に、そんなことばが出ていた。

「……よっこいしょっ」
ベッドに寝転ぶだけで、そんな言葉が出ちゃう。一日お掃除してたから、肩も腰も痛い。でも、そんな疲れなんか、全部ふっとんでいった。こんな大切な贈り物、置いていくなんて、大胆なやつ。

 ……明日にはその大物が、帰ってくる。
飛行機に乗って、あの大空の向こうから帰ってくる。絶対、ぜったい迎えに行かなくちゃ。明日は早起きするぞ、なんて考えながら、眠りにつくのだった。

あとがき

 もととなった曲は、『サンタを迎えに行く夜』/谷村有美(『White Songs』所収)です。『White Songs』は、クリスマス向けの歌4曲を収めたもので、作者が持っているCDの中では、唯一プレミアがついた代物です。限定品で、しかもラメ入りCDケースというなかなか豪華なものです。『21世紀の恋人』以外はほかのアルバムには収録されていない曲ばかり、というのもレア度高いですよねっ。

 書いてみたら、こんな感じにしあがりました。『お部屋へお掃除』ってネタは、実はちゃあるさんのところの茜さんSSから借用してますが、まあいいですよね?

 ということで、またお会いしましょうっ。