サンタを迎えに行く夜 PartII

さく: ねこぽん

 目を覚ますと、1時間10分寝過ごしていた。
「……」
私はあまりのできごとに呆然としていた。昨日、あれだけ確かめたのに、今日はその目覚ましの電池が切れちゃうなんて。ツイてなさ過ぎ。あーあ、どうしよう。

 きょうは彼が長期滞在から帰ってくる日。どうしても空港まで迎えに行きたかったのに、こんな大遅刻しちゃった。彼が空港から帰ってくるルートはなんとなくわかるけど、それでも空港でお出迎え、ってのがセオリーよね。
……あーあ。
「しかたない、とにかく出かけよ」
ひとりぐちると、いつもより少しだけおしゃれして、うちを出た。

 外はまた粉雪が降っていた。
「飛行機……大丈夫だよね」
昨日のテレビでも、空港の閉鎖とかはなかったし、たぶん平気。空港のお天気もちょっと雪くらい、だって言ってたし。私は、彼が帰ってくるであろうルートを、逆にたどる。きっと、どこかの駅ですれ違える。そんなふうに、なんとなく思えるから。……電車が乗換駅にすべりこむ。雪崩を打って、人が駆け出す。階段はあっというまに人で埋め尽される。私は、ひとり、ホームに取り残される。……見回してみたけど、彼はいない。

「もうすこし、行ってみるかな」
そう思って、階段を降りようとしたとき。
ふいに、視界が真っ暗になった。
「だあれだ?」
え、ええっ!? ……でも、その声は。
「……おかえりなさい」
「あは、やっぱわかるか。……ただいま」
ふりむくと、彼が、微笑んでいた。
「おかえりなさい」
もう一度つぶやいて、私は彼に、おかえりなさいのキスをした。

 帰りの電車の中で、私ははしゃぎっぱなしだった。
「それでね、それでね、……」
彼は笑いながら、私の話を聞いてくれる。ねえ、こんなに寂しい思いさせられたんだから、こんなに楽しい時間があったって、いいよね。

「……もっとかび臭いかと思ってたら、そうでもなかったなあ」
彼の部屋に帰ってきた、第一声がこれ。ひどいわ。
「あのね。私がお掃除してあげたのよ」
私が文句を言うと、
「え! あ、そうだったの? 知らなかった、ごめん」
彼が頭を下げて謝った。
「もう、そういうところがあなたはダメなのよね。全然、気づかいってものがないんだから」
「悪かったってば……」
ホント、全然、自分の生活には無関心なんだから、彼ってば。……つい、茶目っ気を出してしまう。もうちょっとすねてみせたら、改善してくれるかな?
「私、なんでこんなのの彼女やってんだろ」
そんなことを言いながら、プイ、とよそを向く。
「ああっ、そ、そんな、ホント悪かったってば」
彼もちょっと困ってる。
「こんなんじゃ、女の子にモテないわよ」
本気じゃないけど、ちょっと怒って見せたりしてみた。
「……それは」
彼の表情が、少し変わった。
「それはかまわないよ。ぼくは、ひとりにだけモテればいいからさ」
そういって彼は、私に笑顔を向けた。
「……そ、その」
その笑顔におもいっきり釣られて、私、一瞬息が止まった。
「そのひとりにモテなくなったらどうするのよ」
……はあっ、言えた。
「それは困るな。じゃあ、改善するよう、努力するよ」
笑顔のまま答える彼。
「……うん」
私もそう答える。

 少し落ち着いた頃。
「お茶でも飲んでいく?」
「うん、ありがとう……でも、私がいれるよ」
彼、きっと疲れてるはずだから。
「そう? じゃあ……って、何がどこにあるか、わかる?」
彼が訊くけど、
「わかるわよ。だって、昨日、大掃除したばかりでしょ?」
「あ! ……じゃ、遠慮なく。お願いします。ぼくは荷物を整理してるから」
「うん」
……電気ポットは下の戸棚の中。お茶の缶は上の戸棚。お湯がわくまで、待っていようっと。
「……あれ?」
彼の声がした。
「なに?」
「うん……机の上にね。『サンザクロースからの贈り物』だって」
あ。それ、私が仕掛けた『贈り物』。こ、こんなときに開けられると、ちょっとまずい感じ。
「さあて、開けてみよっと」
だ、だから、そ、それ……うぅ、止めたりしたら、私が何か仕掛けてるってばれちゃうし……。うぅ……。
「……お、これって」
はぅ。
「これって……はー。わざわざ、こんな仕掛けするかね」
た、ため息つかれてるよ。
「おい……ほんと、懲りないやつだな」
ぶつぶつと独り言をつぶやきながら、彼がアレをもってやってくる。
「この本。テレビの下からみっけただろ。で、わざわざくるんで、リボンかけて、しかも『サンザクロースからの贈り物』なんて書いて……よっぽど掃除、大変だったみたいだな」
そ、そんなエッチな本、私につきつけながら何言いだすのよ!?
「え、ええっ? わ、私知りません」
「掃除してくれるのはありがたいけどさ。こういうのは黙っておいてほしかったな」
「う……」
「メモ書いたのが敗因だな。字が君のだった。ばればれだよ」
そういうと彼は、私の書いたメモをつきつけた。
「……字、覚えてたんだ」
それは嬉しいけど、でも、そんな本もってうろうろしないでよ。うぅ。
「ま、いいさ……そういう、お茶目なところ、好きだからさ」
「……」
また、彼が微笑んでくれる。けど、底意地の悪いことに、彼、こんなこと言い出した。
「さて、罰として、あとで、これを参考にしてもらおうかなあ」
「い、いやーっ」
やだよー。だって、その、まだ……私たち、そこまでいってないよ?

「……ふー」
お茶で一息入れた。
「……荷物、少ないね」
帰ってくるんだから、もっと多くてもいいような気がするけど。
「うん、またすぐ戻らなきゃいけないから」
彼がつぶやく。
「えーっ?」
そんなあ。ぶうぶう。
「ホント、クリスマス休暇なんだよね。お正月には向こうにいなきゃいけないんだ」
彼は苦笑い。
「そんなのやだー」
「わかったってば。わかってる」
「わかってないよお」
ぶつぶつ言ってはみるけど、彼もどうしようもないことくらい、わかってる。それでも一言言いたいのくらい、わかるよね?
「……ごめんな。君も寂しいの、わかるんだ。ぼくも寂しいから」
「だったら……」
「……だったら、向こうにくるか?」
「え?」
そんなことを急に言われて、私、混乱した。それって……つまり、向こうで一緒に暮らそう、って意味、だよね?
「向こうのうちもそれなりに広いし、住環境も悪くない。治安も問題ない……あるとしたら言葉の壁くらいだけど、君は英語、得意だったな。英文学科だし」
「……う、うん」
ま、まだパニックしてる、私。
「それに……その、掃除してくれたんなら、きっと……」
そういうと、彼は私の右手を見た。
右手の薬指には、昨日見つけた、あのリング。
「……」
彼は無言で、私の右手をとった。
「……これが、君の返事と受け取っていいかな」
リングを電球にかざしながら、彼が言う。
「……うん」
私は、うなづくのが精一杯だった。
「ぼくも……君のこと、大切にすることを誓うよ」
そういって彼は、私を抱きしめて、キスをしてくれた。私の目から、涙があふれ出す。もう、止められない。

 彼は明後日には帰ってしまうという。なんでも、
「クリスマスくらい彼女と一緒に過ごせ!」
という、現地の人の計らいだったんだとか。粋だな。でも、向こうの習慣は、
「クリスマスはお休みだけど、お正月はいつもと同じ」
なんだって。だから、本当にすぐ帰らないといけない。だから、今は、彼のことを、できるだけ感じて、この心に刻み込みたい。時間が、ない。

 ふたりで、暖かい時間をすごしていく。
身近な、他愛もないことを話し続ける。夜遅くなっても、部屋の電気はなかなか消えない。きょうは、彼の部屋へ泊まっていくつもりで来てたから、終電も気にしない。
「あ……そういや、終電」
なんて、彼は気を使うけど、そうじゃないの。短い時間、精一杯、一緒にいたい。

 彼の部屋には、布団が一組しかない。知ってたけど。
「ホントに……いいのか」
なんて、彼は何度も訊くけど、何度訊いても答えは同じ。
「うん」
彼の体温を感じられるなら、いつでもそばにいたい。怖くなんて……ない。
「そっか……じゃあ、あしたは遊びに行こうな、ふたりで」
そういいながら、彼が髪を撫でてくれる。
「うん」
「じゃ……その、おやすみ」
そういうと、電気が消えた。

「ねえ」
私が呼び掛ける。
「……うん?」
「腕……かして」
そういうと、私は彼の腕をとって、ぴったりとくっついた。
「……あ」
彼のため息が聞こえる。どきどきが伝わってくる。……私の鼓動も、伝わってるかな。そうやって、彼の体温を感じながら、そして、明日のことを考えながら、眠りにつくのだった。

あとがき

 『サンタを迎えに行く夜』続編です。ムードがぐっとアダルティになってますが、これはどうもエロ本のせいな気がします。作者は恋人事情に詳しくないので、なんとも申せませんが、お部屋に泊まり込むほどの関係と、ナニするほどの関係と、どっちが深いんでしょうねえ。

 最終節あたりを書き換えるとR-15がR-18に化けますな、これ。書けといわれても書きませんけど。

 えー、そんなわけで、ま、また会いましょう。