クリスマスの歌姫(ロングバージョン)

さく: ねこぽん

前書きにかえて

 もともと、『2001クリスマス雑文祭』なるリンク集に応募した小さな雑文でした。それに大幅加筆(いったい何倍?)したものが、本品です。ですから、読んだことがあるかもしれない文章が出てきますが、まあ、あまりお気になさらず。

 では、ごゆっくり。

もくじ

第1章 -- 再会 -- 八月十七日

 俺の部屋に、古びたギターが一本ある。ずいぶん年期が入ったもので、いつ買ってもらったのか、あるいは借りたのか、あるいはもらったものなのか、俺の記憶にはない。姉貴が弾けるわけでも、俺が弾けるわけでもないのに、ずっと俺の部屋の片隅を占めている。ただ、どういうわけか、一曲だけ、弾ける曲がある。主旋律もよく覚えていないのだが、誰かがこれを一緒に歌ってくれた気がする。

 ……あれは、だれだったんだろう。

1

 ミーン、ミーン、ミーン、ミーン、ミーン、ミーン……

「暑いなあ、ったく」
高校最後の夏。
俺は模擬試験を受けるため、真夏の暑い中を、予備校に向かっていた。
「……そこのセミ。うるせえ、畜生」
意味もなく毒づいてみるものの、止む気配もない。くそう、むやみやたらと鳴きやがって。余計暑いじゃねえかよ。

 予備校の中は、クーラーがよく効いていた。ひんやりとした空気の中に、微妙な緊張感が張りつめる。その緊張感が、暑苦しい。
「……これだけクーラー効いてても暑いってのはなあ」
文句を言っても始まらないのだが、ついごちてしまう。
「9424、9424っと……ここか」
自分の席を確認し、もう一度番号を確かめると、椅子に腰を降ろした。
予備校の教室。いつもは、多人数が押し掛け、受験教の教祖の踊りを熱心に見つめるんだろうが、今日は一般の受験者もいるし、なにより席がひとつずつ空けてある。そういう意味で、初めて見る教室は、戦場にしては、のんびりとしたものだった。

「あっつーい」
ふと気づくと、隣の席にも人が来た。タンクトップにジーンズの女子だ。まあ、この暑さだ、そんな薄い格好でもしかたないだろう。が、ここは冷房が効いているぞ。あとで風邪ひいても、知らないからな。
「……ふぅ」
ひとつため息をつくと、彼女も席に着いた。
……気のせいか、どこかで見たことがあるような気がする。

「机の上に受験票、鉛筆、消ゴム、時計、定規を置いてください。それ以外のものは、すべて机の上には置かないでください」
試験監督が、注意事項を読み上げ始めた。ちらと隣を見ると、受験票が机の上に置いてあった。『瀬名あずさ』という名前なのか。
……その名前にも、わずかなひっかかりを覚えた。

2

「試験を終了します。解答用紙を裏返してください」
「……あぐ」
第一科目、試験終了。一夜漬けにしては、上出来な方だろう。もう少しまじめにやらないと、第一志望はきついか。
隣の女子を見てみると、なにやらぐったりつかれた表情だった。
「……ぽきゅん」
そして、変な音を立てていた。その音に、俺はまたしても引っ掛かりを覚えた。

 俺は、記憶の奥底を少しあさってみたが、どうも思い出せない。昔のことはきれいすっぱり忘れる主義の俺だから、そう覚えているはずはないとは思っていたが、これだけ全然思い出せないのに、ひっかかりがある、というのは、非常に気持ち悪い。

「……あの、どうしました?」
ふと気がついたら、彼女の方も俺を見ていた。
「あ……わ、悪いな。何でもない。何でもないから」
「そうですか?」
「あ、ああ……」
『かわいかったから見てただけ』とか言ったら、フォローになったかな。なるわけないよな。……ましてや、『何かひっかかる』なんて、言えるわけないし。彼女は不審そうに俺を見たが、そのままフイと、目をそらした。そしてなぜか、小首をかしげた。……そのしぐさにさえ、俺の心はひっかかっていた。

 その後も、休み時間のたびに、ちらと彼女の方を見てみるが、俺の灰色の脳細胞は、一向に思い出す気配を見せない。なんかこう、出そうででないくしゃみのような気持ち悪さだ。
「……」
何回か彼女の方を見たとき、また目があった。
「……」
彼女の眉がちょっとだけ寄せられていた。……うわ、怒ってる。これだけじろじろ見ちゃあ、無理もないけど。
「あの……」
俺は思いきって声をかけてみた。
「ごめんな、さっきからじろじろ見ちゃって。悪い」
「あ、いえ……その、あたしもつい」
彼女が答えた。
「え?」
俺が答えにつまると、
「えとその。あの……昔、友達だったコによく似てて。ごめんなさい」
彼女はわたわたしながら、軽く頭を下げた。
「あ、いや。こっちこそ……なんだか、覚えがある気がして」
俺も釣られたのか、つい本音を漏らしてしまった。……うわっ、しまったぁーっ!!
「そ、そうなんですか?」
案の定、驚きの表情の彼女。しかし、それもすぐに笑顔に変わった。
「……それも、何かの縁かもしれませんね。えと、あたし、瀬名あずさっていいます」
俺も釣られて挨拶する。
「あ、俺、若葉幸仁」
「……こ、う、じ?」

 その呼び方に、俺の中で、記憶の糸が一本につながった。

「あ! あずさかぁ!」
俺を『こうじ』と呼ぶやつは、この世にたった二人しかいない。俺の姉貴と、あいつ……あずさだ。
「ああっ! 幸仁なんだ、やっぱり! ひさしぶりだよぉ」
「ああ、本当だな」
あいつと会うのは……何年ぶりになるんだろう?

「すいませーん、静かにしてくださーい」
大向こうから文句が出た。
「わりーい」
一応、頭を下げておく。……そして、チャイムが鳴る。
「幸仁、またあとでね」
「あー、もう試験時間か。ああ、あとでな」

3

 四科目終了。
「くぁ……」
大きくあくびをしてみる。得意科目で時間終了ってのは、気持ちが楽になる。となりのあずさを見てみると、ちょっと難しい顔をしていた。できは余りよくなかったのだろう。
「ふきゅぅ……」
上を向いて、ため息をつく。そういえば、そんな癖があったっけな。
俺はあずさに声をかけてみた。
「瀬名さん、おつかれさま」
「幸仁、そんな他人行儀、やだな。あずさでいいよ」
あずさが微笑む。
「そう……か?」
「うん。むしろ、あずさって呼んでほしいよ。あたしも幸仁って呼ぶけど」
俺の目をまっすぐ見て、あずさが言う。……そういや、頼みごとがあるときには、かならずこんな目をしていたな。
「わかった。じゃあ、そうしよう。……ほんと、何年ぶりだろうな」
「もう、よく覚えてないよ……小学校の低学年くらいまでだもんね」
「ああ」
……あの頃、俺とあずさはよく一緒に遊んだものだ。男勝りだったあずさは、俺や男友達と一緒になって、よく野山を駆け巡った……というのは誇張だが、同じ公園の遊び友達だったのはたしかだ。それから、どうしてあいつとは遊ばなくなったのだったかな。やっぱり、あいつは女で、俺は男だったからかな……。
「幸仁、聞いてる?」
あずさが怒ってる。
「ん? あ、わりい」
さすがに俺もばつが悪い。
「……なんか難しい顔してたよ」
「そうか?」
「小さい頃はよく一緒に遊んだよね」
あずさが微笑みながら言う。
「……ああ。懐かしいな」
俺にもそんな頃があったよな。
「なんでだろうね……いつのまにか、全然遊ばなくなっちゃって」
あずさ……同じこと、考えてる。
「俺もそう思った」
「……なんでかな」
俺にも、わからない。
「ひっこした、ってわけでもないよな」
「幸仁こそ」
「全然だ。……なんでだろうな」
「……わかんないね」
記憶の糸を少したぐってみたものの、得るものはなかった。

 沈黙がつづいた。

 あずさが口を開いた。
「……それよりさ、幸仁」
「ん?」
俺が聞き返した。
「また、一緒に遊ぼう、っていうかその」
あずさが提案してくれる。俺は一も二もなかった。
「ああ。受験生だしな、『一緒に勉強しよう』だな」
「あは。うん」
あずさが大きくうなずいてくれた。その笑顔に、一気に時が10年以上遡った気がした。

4

 試験終了。すっかり日が暮れていた。

「……あずさ」
「うん」
俺は一声かけただけなのに、あずさは軽くうなずくと、荷物をまとめて、俺のそばへ来た。
「帰ろっか」
「……ああ」
あずさ、おまえ、相変わらず笑顔を絶やさないな。何かこう、俺、その笑顔に、いつも釣られちまうんだ。困ったやつだよな……。

「幸仁、高校、どこ?」
あずさが聞く。
「北」
俺が答えると
「あれ? ……あたしもだよ??」
「え?」
ってことは、俺もあずさも、全然気づかずに同じ高校に通ってたってことか?
「ううん、全然見覚えがないんだけどなあ。ホントに行ってる?」
あずさにつつかれる。
「おまえこそ……」
つつき返してみる。
「あたしは行ってるよー」
あずさが口を尖らせる。
「……なんつーか、不思議なもんだな。全然気づきもしないなんてな」
「そうだね」
釈然とはしないが、まあ、そういうこともあるものだ。気にしてはいけない。
「でもさ」
あずさが言葉を継ぐ。
「幸仁、全然変わってないよ。なんだかほっとした」
「全然?」
「うん。あのころといっしょ」
「そうか……」
「あたしは?」
「……そうだなあ」
変わったよ。めちゃくちゃ変わった。いつのまにか、ずいぶんと女らしくなりやがって……。
「言えるか、そんなことっ!」
俺はつい大声を出してしまった。
「え!?」
あずさが驚く。ま、まずい。
「あ、いや、その……い、いいじゃねえかそんなこと」
俺は必死にごまかそうとする。……だが、あずさに食い下がられる。
「よくないよー」
「この話やめっ」
「えー、教えてよぉ」
「だからもういいって」
「よくないー」
「……ほら、帰るぞ」
「むーうー。聞きたいー」
その後もしばらくごねられた。……だが、そんなこと言えるわけ、ないじゃないか。

5

「姉貴、ただいま」
俺は今、姉貴とふたりで暮らしている。この春突然、オヤジとおふくろ、二人とも、海外出張に行ってしまった。正確には、オヤジの出張におふくろがついていく格好なのだが。
オヤジは、
「おまえらも来るか?」
とか言うのだが、受験生の俺と、俺とは少し年が離れていて、すでに会社でもベテランOLの姉貴は、日本に残る以外の選択があろうはずがない。
「おかえりー。幸仁、試験、どうだった」
姉貴の返事が聞こえる。早速訊くか。
「んー……まあまあ。もう少しってとこかな」
「そう。ま、がんばんなさいね」
「あいよ」
どこか気の抜けた応援に、気の抜けた返事。これが姉貴と、俺との距離。

「姉貴。『あずさ』って名前に、覚え、ある?」
夕食をつつきながら、俺は姉貴にも、あずさのことを振ってみることにした。
「うん、覚えてるわよ。あずさちゃんがどうしたの?」
姉貴は事も無げに答える。
「……さすがだ」
俺は感心するしかなかった。うちで一番の物覚えのよさを誇るだけはある。
「なにがよ」
姉貴があきれる。
「俺、全然忘れてた」
「はっくじょーねーえ。大事なお友達の名前、忘れるものじゃないわよ。で、そのあずさちゃんがどうしたの?」
「実はな。今日、予備校で、あいつに会った……」

 俺は姉貴に、予備校であった話を聞かせてみた。
「……なんていうかさあ」
姉貴はひとこと。
「あんた、ニブすぎ」
「へ?」
「仮にも同じ高校でしょう? それくらい見つけなきゃ」
姉貴が俺を問い詰めようとするが、
「いや……クラスも違うし、背丈も違うし、髪型も違うし」
それに、あのころよりずっと……女になっちまったし。
「そんなものかなー……」
「女は変わるからな」
ポロッとこぼしたひとことを、姉貴は聞き逃さなかった。
「……なるほどねえ」
姉貴はニヤッと笑うと、それきり、その話題を切り上げた。その笑い、なんか考えてるとしか読めないんだが……。

 その夜。ふと思いついて、錆びたギターを取り出してみた。指だけが覚えている曲を、つま弾いてみた。

 ……まだ、弾けた。

 ただ、それが何だったのかを思い出せるほどには、俺の記憶の糸はまだつながっていなかった。

第2章 -- 北辰の星のもと -- 十月十一日

1

「買い出し終了ーっ。ふぃーっ、重てーっ」
「あ、若葉くん、ご苦労様っ。もう必要ないと思うから、遊びに出てていいよ」
「……そうか、了解。がんばってな」
「うん」

 北辰祭。
10月11日は、俺たちの学校の学園祭である。……なに、田舎の学校の学園祭だ、誰か有名人を呼んで講演してもらうとか、アイドルのコンサートがあるとか、そんなこたあない。あくまで、俺たち手作りの、俺たちのための祭りに過ぎない。とはいえ、地域の人たちもそれなりに楽しみにはしていて、この日ばかりは、静かな学校も人でにぎわう。

 俺たちのクラスは、喫茶店を出店した。とはいえ、クラス全員参加というわけにも行かない。クラスの半分以上は、サークル、同好会あるいは部活の出品の方で多忙で、残った有志がなんとかクラス出店を支えることになる。俺たちのクラスはというと、となりのクラスの有志と共同で、なんとか喫茶店を出店するのに成功した、という程度である。だからかもしれない、参加者の志気は高く、ひとりとしてサボるやつなどいなかった。……にしてもだ。なんでまた、ウェイトレスがみんなフリフリのヒラヒラなんだ? 聞くところによると、『冥土喫茶』なるものらしいのだが、それじゃあみんな白装束だったりするんじゃないのか?

 (後日、俺はそれが『メイド』の誤りであったことを知る。恥ずかしい限りである)

 ま、まあ、いいや。俺の仕事は、金勘定と、買い出し、それに片づけ。いわゆる力仕事ばかりである。終了時刻までは、仕事はない、ってことだ。

 ふらふらと教室を出たが、俺には行くあてはなかった。
「……ふぅ」
ひとつため息をついてみるものの、いいアイデアなんか、浮かばない。

 階段を降りて、看板を見てみた。他の出品に興味なんかなかったから、俺はそこまで、どこが何を出しているのかなんて、知らなかった。
「……食い物、多いな」
アトラクションや研究展示もたくさんあるが、食べ物もいくつか出ている。
「喫茶店、バーガー、手打ちうどん、うなぎ、居酒屋……っておいっ!」
居酒屋はまずいだろう。

 ……その看板の片隅に、こんな文字を見つけた。
『アコースティックライブ 歌: 瀬名あずさ(3-4) 202教室 14時』……ん?
「瀬名あずさ……って、やっぱり、あいつだよなあ」
俺は行ってみることにした。時間も、ちょうどいい。

2

 202教室、14時。

 俺は椅子を一つ占拠することに成功していた。
……というよりも、ほとんど部屋を占拠していた。
「なんだあ……誰もこねえのかあ?」
もうすぐライブだというのに、人っ子ひとりいない。いくら瀬名あずさが無名だからって、これもひどいものだなあ。
「それより、いつ始まるかな」
14時はもうすぎた。5分くらいの遅れは、まあ覚悟の上だが、それがいつかわからないことの方がけっこう気になる。
「……」
どこかの教室からかっぱらってきたらしい、教壇2個を並べただけのステージに、椅子が四つ並んでいるだけの、簡素なステージ。その上には、まだ、誰もいない。

「……幸仁っ」
ぼうっとしていたら、後ろから肩を叩かれた。
「あずさ……?」
「見にきたの?」
あずさは、俺の前へくるりと回ると、軽く微笑んで見せた。
「ああ……暇だったんでな」
「そっか。ありがとう」
あずさがぺこっと頭を下げる。……そういや、制服のあずさ、はじめてみるな。2年半も通ってたのに。
「いや……」
「でも、ごめんなさい」
あずさがもう一度頭を下げた。
「は?」
俺は状況が飲み込めない。
「……あのね、伴奏のギタリストとオカリナの人が、風邪で寝込んじゃったの。だから、今日は中止」
あずさが肩を落とす。
「そりゃ残念だったな……って、そういうことはおもてに書いておけよなっ」
「そ、それもそうだね、ごめん」
あずさがわたわたと手を振る。
「……あ、あずさに怒ってもしょうがないか。で、どうするんだ?」
「なーんにも予定ないの」
いつのまにか、となりの椅子に座っていたあずさが、上を向いてぽつり。
「ホント、今年はこれにかけてきたから。全然。……ぽきゅん」
……どことなく、寂しい。
「なら……俺といっしょに、どっか見に行くか?」
「え?」
最後の学園祭、何にもしないのも、寂しいじゃないか。……俺が言える義理でもないけど。
「……ううん、いい」
あずさはあっさりとかぶりを振った。
「そっか……残念だな。じゃあ」
俺が席を立とうとすると、
「でもね」
あずさが言葉を継ぐ。
「……?」
「幸仁がせっかく来たんだ。ひとりだけのライブ、やるよ」
「え?」
あずさは立ち上がり、壇に登った。

「瀬名あずさのアコースティックライブへようこそっ!」

 そのときのあずさは、何よりもきらめいていた。
「ごめんね、ア・カペラの曲、一つしか用意してないんだ。だから、それだけ。ホント、ごめん」
「あ、い、いや……別にかまわないから」
「じゃ、聞いてください。『ハーフ・ムーン』」
「……」
あずさが歌い始めた。
『夜明けまじかの……』……あずさの歌は、教室いっぱいに広がっていた。聞いたことのあるメロディなのに、その歌は、何よりも暖かだった。……たしかこの曲、とても寂しい歌詞だったはずだよな。なのに、あずさの声には、優しさがいっぱい詰まっている。これが、あずさなのか……。

 『Hu……』歌が終わったのに、俺はぼうっとしていた。いすに縛り付けられたように、何も考えられない。俺の心が、気持ちをいっぱいに吸い込んで、それ以外のことを追い出してしまったようだ。……歌ひとつで、こんなふうにもなれるんだ。あずさの歌に、こんな力があるなんて、全然知らなかった。
「……どうだった、かな?」
あずさが壇を降りた。
「……」
俺は答える言葉を持たない。
「……あのー。何か言ってくれないと、やりがいがないんだけど」
「あ……ああ」
まだ、言葉にまとまらない気持ちが、頭の中を回っている。
「優しいな……とても、優しかった」
俺は必死に言葉を繰る。
「え?」
「なんていうか……すまん、うまく説明できない。とにかくよかった。うん」
「そっか……よかった。ダメかと思っちゃった」
あずさに安堵の表情が広がる。
「いや……ダメなんてことは全然ないから。なんていうか……その、ノックアウトされた気分。最高だよ。うれしい、かもな」
「あはは……ありがとう」
あずさが、いつもの笑顔にもどっていた。……俺の気持ちの、ほんのかけらでも、感じてくれたら、それでいい。

3

「そうだ。幸仁、クリスマスコンサートって知ってる?」
あずさが聞く。
「んー……あれか? 修道院の」
「うん」
学校のとなりに修道院がある。大きな聖堂には、パイプオルガンがある。毎年そこで、クリスマスイブには、コンサートが行われることくらい、この学校の生徒なら、誰でも知っている。
「それが……どうかしたか?」
「うん。あれのソリストにね、あたし、応募したの」
「……ほう」
ソリスト……独唱者。年に1回だけの、コンサートのためだけの。あのコンサートのソリストは評価が高く、その後プロになった人が何人もいる。
「そうか……がんばれな」
「うん。18日にオーディションがあるんだ。毎年、何人も応募するんだけど、歌えるのは、各パートたった一人なんだよ」
「ほー……そいつぁ」
……大変な競争なんだな。
「もし、よかったら、見に来てくれるかな。これ、チケット」
あずさが俺に、一枚の紙切れを手渡す。
「え? お、俺が?」
「うん」
……あずさ、その笑顔、反則。
「……わかった。見に行くよ」
「うんっ!」
あずさに、笑顔の花が咲いた。

 それから、俺はあずさと別れて、教室に戻った。ポケットからチケットを取り出してみる。『チケぴ』とか印刷してあるぞ。本格的だなあ。
「オーディションにチケットたぁなぁ」
それくらい、熾烈なんだろうな。

 でも、ひとつ、確証を得たことがある。あずさなら、……あの優しい声なら、きっと、大聖堂の観衆、みんなの心を打てる。間違いなく。

第3章 -- クリスマスの歌姫 -- 十二月十八日

1

 目を覚ますと、1時間10分寝過ごしていた。

 なにせ昨日、結局徹夜同然だったからなあ。鬼のような宿題攻勢で、書き物だけで時間を食いすぎた。12月も半ばだというのに、まさに「べりーくるしみます」だ。

 今日はあずさがオーディションに出るというので、それを見に行こうとしている。クリスマスの聖歌を、修道院の大聖堂で歌う人を選ぶのだという。会場につくころには、もうオーディションは始まっているだろう。あずさの出番はまだまだ先だが、間に合うかどうかはぎりぎりか。……どうすっかな。

 一階に降りると、姉貴がいた。
「あれ? 幸仁、もう出かけたんじゃなかったの? 今日あずさのオーディションでしょ」
「あ、ああ……」
俺が曖昧に返事をすると、
「寝過ごしたの? しょうがないなあ。とりあえず、パンでもかじって、とっとと行きなさい。ほら」
そういいながら、姉貴が食パンを差し出してくれた。
「……」
「ん? どうしたの」
俺の逡巡を気づかれたか、姉貴が俺をのぞき込む。
「ほら、早く行かないと」
「……どうしようか」
追い詰められた俺は、思わずつぶやいていたらしい。
「どうしようかって……あんた、今日はだいじなあずさのオーディションじゃないの。これに合格したら、あの娘、いよいよ聖堂で歌えるんでしょ?」
そんなことはわかってる。あいつは合格できる実力の持ち主だ。俺のひいき目だけでなく、誰もが認める力の持ち主。
「そんな大事なときに、あんたがいなくて」
「俺がいなくて?」
……俺がいなくても、なんとかなるんじゃないか?

「幸仁」
姉貴がむっとした。語気に怒気が含まれる。
「いいから行ってきなさい。ほら、あんたの部屋掃除するからっ」
「いや、だから……」
「行けばわかるって。行かないと蹴飛ばすぞ」
「は。はいはい」
こうなったときの姉貴は怖い。俺は取るものもとりあえず、外に出ることにした。

2

「ほう……」
冬の凛とした寒さが、一気に体にしみる。吐く息が白い。
「行けばわかる、か……」
姉貴のことばが頭をよぎる。
……あずさ、どうしてるかな。とにかく、行ってみよう。大遅刻だけど。

 会場は大聖堂をもつ修道院。本番と同じ場所である。前の人の歌唱が終わったところで、そっと潜り込む。席はもうほとんど埋まっていた。前の方が少しだけ空いていたので、そこへこっそりと座る。なにせ静かな会場だ。ちょっとした音でもすぐに響いてしまう。

 空いていた席は、ちょうど袖にあたるところだった。
「……あ」
ふと目をあげると、あずさが袖にいた。こちらには気づいていないらしい。今日はいつもと違って、先生が近くにおらず、ひとりのようだ。

 ……あずさの緊張感が、なんとなくわかる。背中しか見えないが、ふるえているような気がする。それにいつもより、背中が丸い。何か手を合わせて祈っているようにも見える。

「……おっと」
気がついたら、次の受験者が歌唱を始めているじゃないか。入場料はただじゃないんだし、ちゃんと聞こうか。
……ぱちぱちぱち。さすがに聖堂での歌唱という栄誉を受けようという人だ、それなりの実力はもっている。黙っていても、拍手がおこる。だが、時間とコーディネータは容赦がない。
「……次の方」
その声を合図に、あずさが壇に登った。いつものTシャツにジーンズではなく、白いワンピースに身を包んだあずさが、そこにいた。そして、指揮者の手振りを合図に、歌い始めた。

「Ave Maria……」

 ……最初の一声で、会場は水を打ったように静まり返る。いや、いままで騒々しかったというわけではない。あらゆる聴衆を引き込んでしまう、その印象。裕福な声量に裏打ちされた、贅沢ささえ感じさせる、その表現力。誰もがあずさの声に圧倒されているのだ。

 それは俺も、そして会場の誰もが例外ではなかった。あずさが歌い終わってもしばらくは、誰もが動けずにいた。あずさが軽く頭を下げ、袖に帰っていくと、拍手の渦が、あずさを追いかける。
「なんだあいつ……やるじゃないか」
俺はあずさがその実力を出しきったことに安心した。袖にふるえていたあずさは、単なる緊張だったんだろう。よかった、とにかくよかった。これで、あいつは、オーディションに合格できるだろう。そう考えた俺は、会場を抜けることにした。

 冬の日差しが目にしみる。
「そうだなあ……祝いの一つも買ってやるか」
あずさの合格記念と洒落込もう、そう考えたのだが、つい茶目っ気を出してしまう。俺はまっすぐ薬屋へ向かうと、ハーブキャンディを1缶手にした。ちなみに、こいつは1缶1500円くらいする。ただの飴ではない。これをわざわざ、きれいな包装紙にくるみ、リボンをかけてもらった。
「あの、クリスマスプレゼントの中身が、これですかあ?」
店員さんに不審がられてしまったが、気にしないことにした。

 戻ってきてみると、受験者がまだひとり残っていたらしい。
「……聞いてみよう」
袖の席がまた空いていたので、そこにそっと潜り込む。そして歌唱が始まった。

「We praise thee, O God……」

「……!」
……これを聞き逃さなくてよかった。この歌唱力は、並たいていではない。会場の広さを知りつくし、声質にあった選曲で徹底的に聞かせる。並々ならぬ努力と叡知がそこに込められている。まさに、びりびりくるような演奏とは、このことだ。これは……大変なことになってきた。

 演奏が終了しても、客席から反応がない。演者が深々と会釈すると、ようやく拍手がおこり始める。ぱち、ぱちぱち、ぱちぱち……。俺も茫然自失であった。

3

 すべての演奏が終了し、主催者が判定を下すまでの間、会場がオープンになった。

「すばらしい演奏でしたね」
「……最後に演奏された、めぐみさんですか? ええ。本当に、会場の雰囲気を飲み込んでしまいましたからねえ」
「合格者はめぐみさんですかねえ」
「いや……あずささんもすばらしかったですよ」
「そうですねえ。でもめぐみさんが最後に来ましたから、わからなくなりましたねえ」
「難しいでしょうね、今回の選考は」

 会場からいろいろなうわさが聞こえてくる。うわさは、あずさとめぐみさんの一騎打ちだが、わずかにめぐみさんのほうが優勢のようだ。……こんなの、買ってきてる場合じゃなかったのか。

「会場のみなさま……」
ざわついていた会場が、主催者の一声で静まり返る。
「合格者を発表します」
……いよいよ、来た。

「今回のオーディションは、大変レベルが高く、どなたもすばらしい演奏をなされました」
審査委員長でもある、修道院長が、まずは無難なコメントをする。
「審査でも、票は真っ二つに割れました。そしてどちらにするか大変迷いました……」

「まずあずささん。オーソドックスな選曲で、オーソドックスな歌い方の中に、すばらしい表現力を感じました」
あずさの演奏らしいコメントだ。
「そしてめぐみさん。慣れた曲を、会場の響きを使ってよくコントロールされていて、聞かせる、という点では随一でした。まさに、本院におあつらえ向きの、お声でした」
さすがによく聞いてらっしゃる。的確な評価だろう。

 院長のことばに、会場中が耳目を集める。これほど長く感じられる一瞬もないだろう。

「ですが……」
つばを飲み込む音さえ聞こえてきそうな会場に、審査委員長のことばが響いた。
「あずささんの表現の中に、わたしは愛を感じました。本来、このオーディションは、神への愛を捧げる儀式で歌われる歌の歌い手を探すものです。審査委員長として、そして主祭として、わたしは神への愛を捧げるものに歌ってほしいと思います。めぐみさんのような、計算された美しさでなく」
……一瞬の間を置いて、院長が高らかに宣言した。

「本年度の合格者は、あずささんです」

 そして、会場が割れんばかりの拍手にわいた。俺の全身から、力が抜けた。
「よかった……な」
あずさにとっては、最後の機会だったこともある。来年には、俺もあずさも上の学校へ進学するために、この地を離れる。最後の思い出として、本当に最適なものが手にはいったのではないだろうか。意味のある、栄誉だ。

4

 オーディションも無事終了し、会場からほぼ人が引けたころ。
「さて……行こうか」
と立ち上がると、袋が、かさかさ、と音を立てた。
「……あ、そうか。これ買ってたっけ」
さきほどの緊張ですっかり忘れていたが、ハーブキャンディを1缶、袋にいれていたのだった。
「どうすっかな……」
あずさに渡してやりたいのは山々だが、さて、うまく捕まるだろうか。

 会場を出ると、雪が降り始めていた。
「冷えるはずだ……」
そんな独り言をつぶやくと、門柱の前に、見知らぬ白い人影がある。そしてその人影は、俺を認めると、つつ、と近寄ってきた。
「こんばんは。遅刻、だぞ」
そしてその人影は声を発した。

「……あずさ?」
……信じられないことに、それは、あずさの声だった。
「うん。わかんなかった? あたし、だよ」
「いや、その……悪い」
そうか、いつものTシャツじゃなくて、白いワンピースだから、見覚えがなかったんだ。
「へっへー、見違えたでしょ」
「ま、まあな……」
ちょっと照れくさいのを隠すため、俺は目をそらした。
「そ、そうだ。あずさ、祝勝。これをあげよう」
そういって、俺はきれいにラップされた箱を取り出す。
「わあ……ありがとう。開けていい?」
俺が『どうぞ』という前にもう、あずさは結び目をほどいていた。
「何かな何かな〜♪……」
かさかさと音を立てて、リボンと包装紙が取り除かれる。中から出てきたのは、さきほど仕込んだハーブキャンディだった。
「わ、またこれ? もうちょっとロマンチックなものかと思ったのに」
あずさが口を尖らせる。
「……でも、うれしいよ。気を使ってくれてるんだね。ハーブキャンディって、のどにいいっていうの、知ってるんだね」
「ま、まあな」
そういわれると、やっぱり、照れくさかった。

「あずさ。今日は、ほんとよかったな」
……とりあえず、祝ってあげなきゃな。
「主催者の発表を聞くまで、ほんとどきどきものだったもんな」
「そうだね」
あずさがうなづく。
「あたしね、今日勝てたのは、幸仁のおかげだと思ってる」
「俺の?」
俺は聞き返した。あずさは、
「うん」
と頷き返した。

 あずさがぽつぽつと話し始める。
「あたし、実はすっごく緊張してたの」
「知ってる」
俺が答えると、
「……そうだろうと思った。あたし、緊張しすぎて、のどがからっからになって、足がふるえて……。あのままじゃきっとダメだと思った」
あずさがことばを継ぐ。
「俺も見ててやばいと思った」
「そうだよねー。あたし自身、やばいと思ったもん」
「……で、どうしたんだ」
俺が聞いてみると、
「あのね」
あずさはそうつぶやいて、俺に向き直った。
「あたし、『幸仁、来て』ってお祈りしたの。『来て、あたしを助けて』って。そしたら、……ほんとに袖に来てた」
「あ、ああ……遅刻してごめんな」
俺は頭を下げた。
「ううん、いいの、もう。いつもいつもいじわるだけど、きっと、ほんとに大事なときだけは、絶対来てくれるって思ってたから」
あずさが俺を見つめる。
「だから、あたし……あれだけの歌が歌えた」
……たしかにあずさの演奏には愛がある、と、審査委員長が言っていたな。
「幸仁に聞いてもらうために、いっぱい、いっぱい、気持ち込めて」
「……あずさ」
「幸仁、ありがと」
あずさはそういうと、俺をしっかりと抱きしめた。
「みんな、幸仁のおかげだよ……」
あずさの目に涙が浮いていた。俺は、ハンカチを取り出して、あずさの目を拭ってやった。
「あずさ……俺」
「幸仁、好きだよ」
……俺に言われる前にいいやがった、こいつ。
「俺もおまえが好きだ、だから」
そういいながら、俺はあずさをぎゅっと抱き返した。あずさの体温を、全身に感じながら。
「だから……本番も頑張れ」
「うんっ」

5

 帰りの道すがら、あずさに聞かれた。
「幸仁、結局、きょうはどうして遅れたの?」
「……半分徹夜。宿題があれだけだろ」
「あっ、あたしもだ!」
「あとでうつさせてやるよ。これも祝勝でな」
「わあ、ありがとう!」

 それから俺は、少し用事を思い出した。あずさと別れて、本屋に立ち寄って、来月の時刻表を買う。そろそろスキー旅行とか考えないとなあ。

 そんなこんなで、プラプラとしたあと、俺は家に帰ってきた。
「ただいま」
「おかえり」
姉貴の声が、台所からする。いいにおいもする。ケーキだな、これは。
「あずさ、合格したよ」
俺が報告すると、
「知ってるー」
と声が返ってくる。なんだって? ……そして、
「おかえりぃ」
もう一つの声がした。……あずさだ。

 台所に顔を出すと、姉貴とあずさがいた。
「おかえり」
「た、ただいま……」
あずさがあまりににっこりと笑うので、俺はついたじろいでしまった。そのうえ、
「おめでとうあずさ。幸仁と仲よくね」
姉貴がさらっとそんなことをいうので、
「わっ、姉貴」
「お姉さんってば」
俺もあずさものけぞるのだった。
……ん、おねえさん?

 ケーキでひとしきりお祝いしたあと、あずさは宿題を写しにかかった。オーディションの関係で、このところあずさはまともに勉強してないはずだ。……予想通り、宿題は山になっていた。
「ふにゅう……」
変な音を立てながら、あずさがへこんでいくのがわかる。
「……しょうがない、俺も手伝うか」
「ごめんね」
へこんだままあずさがうなづく。
「気にするな。そんなことより片づけるぞ」
「うん」

 宿題は思ったよりもはるかに時間がかかった。……そもそも、その宿題で昨日徹夜したのは誰だっけな、俺。考えてみると、そう簡単に終わるはずがない。
「……まだ、いっぱいあるね」
あずさがうなだれる。
それから、俺とあずさは必死に宿題を片づけた。姉貴は姉貴で、
「妹ができたみたいでかわいい〜」
とかなんとか言いながら宿題のじゃまをする。じゃまするんなら手伝えよ、姉貴。

 ずっと集中し続けて、宿題の山がなんとか片づいた。
「ようやく終わった……」
「ああ……」
俺たちから安堵のため息が漏れた。ところが。
「げっ……11時? うわ、やべっ……」
時計を見てみると、とんでもなく遅い時間になっていた。俺が、
「遅くなっちまったな。送っていこうか」
と言うと、あずさはこう答えた。

「ううん、いいよ。絶対遅くなるから、泊まってくる、って言ってきたから」

 俺はのけぞるしかなかった。
「あ、あずさ……まじで聞くぞ。どういう言い方した?」
「うん? 友達のところへ泊まるって」
事も無げにあずさが言う。
「男友達って、ちゃんと言ったよ。そしたら、『がんばんなさいね』って」
「え、あわわ」
ちょ、ちょっとあずさのおかん。どういう意味か、それ。
「それとも、いちゃイヤだった?」
あずさが逆に聞き返す。
「いや、そんなことはないんだけど……」
俺がたじろぐと、
「じゃあいいよね」
あずさがさらに念を押す。
「……ん」
ええ。そんな目で見つめられちゃ、イエスとしか返事しようがないんですが。

6

 それから俺は、先に風呂に入って寝床についていた。
「……幸仁」
部屋の外で声がするので、そっとドアを開けてみると、あずさが姉貴のパジャマと半天を着て立っていた。
「寒いから入っていい?」
俺が『いい』と言う前にあずさはドアをすり抜けてきた。
「幸仁、お姉さんにこっちに布団があるよって聞いてきたんだけど」
あずさが言う。
「え? 俺は聞いてないよ?」
実際、俺用の一組しか置いてないのだが。
「……おっかしいなあ」
あずさが首をかしげる。
「ちょっと俺、姉貴に布団借りてくる」
俺が外へ出ようとすると、
「……いいよ、幸仁」
そういってあずさが俺の袖を捕まえた。
「幸仁の布団、借りるから」
事も無げにそういうと、あずさは俺の布団へもぐり込み始めた。
「お、おい、じゃ俺の寝床は?」
「ここ」
布団から頭だけ出したあずさが、自分を指さす。
「あたしはいいよ。幸仁はイヤ?」
そ、そんなわけないけど……俺、自制できるか? 自信、ないぞ?
「幸仁ならいっしょでもいいよ、あたし」
あずさがさらに追い討ちをかける。
「……知らないぞ、あずさ、何されても」
俺が言うと、
「いいよ。幸仁なら何されても」
あずさが返す。
「……ほんとに?」
俺はさらに問うてみたが、
「うん」
あずさはうなづいた。

 俺はあきらめて、あずさと同じ寝床に入った。

「電気、消すぞ」
「うん」

 ぱちん、と電気を消すと、俺の部屋は真っ暗になる。
「まっくらだあ」
あずさが当たり前のことをつぶやく。
「俺はいつもこうしてるからな」
「ふうん、そうなんだ。知らなかったな……ねえ幸仁」
「うん?」
「……おやすみ」
「ああ、おやすみ」
そういうと、あずさは眠りについたようだった。すうすうと、寝息を立てている。

 ふと寝顔をのぞき込んでみると、やっぱり年相応の女の子の顔だった。なんか唇が動いてるな、なんだろう、と思って、聞き耳を立てると、
「幸仁、好きだよ」
とつぶやいていた。
「幸仁、信じてる」
とも。

 あずさが俺の横で、寝息を立てている。
「……おやすみ、あずさ」
明日起きたら、どんな顔して、どんなこといえばいいかな。そんなことを考えながら、俺も眠りにつくのだった。

7

 そして、24日が来た。

 姉貴も俺も、スーツに身を固め、やたらと緊張していた。ともすると、あずさよりも緊張していたかも知れない。……今日、あずさが修道院でソリストになる。あの歌声を、ホールいっぱいの観衆に聴かせる日が、来た。

「……あずさ」
俺と姉貴は、舞台裏にいたあずさに声をかけてみた。
「あ。幸仁、お姉さん」
「こんにちは、あずさちゃん」
姉貴がにこっと笑う。あんまり見ない表情だな。
「こんにちは……」
あずさの笑顔は、やっぱり少し固かった。
「あずさ……ちょっとこっち」
俺はもう一回、あずさの名前を呼び、手招きをした。
「ん、なに……えっ」
近づいてきたあずさを、俺はいきなり抱きしめた。
「こ、幸仁……な、なに……?」
あずさのためらいが感じられる。だが、抵抗はされなかった。俺は、あずさの髪を撫でながら、つぶやいた。できるだけ、優しく。
「あずさ、俺がついてる。大丈夫だ、俺がついてるから」
「……」
「俺は……いつだって、おまえの味方だ」
「……うん」
あずさが、わずかにうなづいたのがわかった。俺は体を離すと、肩をつかみながら、あずさの目を見て言った。
「いけるか……あずさ」
「……うんっ!」
そう強く宣言したあずさの顔に、いつもの笑顔が戻ってきた。
「がんばるよ。……あたし、幸仁のために歌うから」
「ああ……精一杯、やってくれ」
「うんっ」
もう一度うなづいたあずさは、もう、ふるえてはいなかった。

 席に戻ってから。
「幸仁」
姉貴がつぶやいた。
「なんだ」
「……あの子が緊張してるの、あんたにもわかったのね」
姉貴はため息をついた。
「わからいでか。あんな固い表情」
「そう……幸仁も、変わったのね」
もういちど、ため息をついた。そして、今度はいつもの調子で。
「……でも。あたしの前で、あんまり見せつけないでよね」
「うっ。ごめん」
俺は謝るしかなかった。

 ……コンサートが始まる。

 合唱団とともに歌う曲、パイプオルガンと歌う曲、そしてア・カペラ。そのひとつひとつに、やさしさと力強さが感じられた。曲が終わるたびに、惜しみない拍手が送られる。……なにげない歌声なのに、涙が出るほどに、俺の心にしみてくる。それは、さっきのあずさの言葉。

「あたし、幸仁のために歌うから」

 あずさ……おまえの想い、俺、しっかり受け止めるよ。

8

 コンサートは無事終了した。俺はもう一度、舞台裏にいってみた。

「……おつかれ」
「あっ、幸仁。ありがとう」
……あずさがいい表情をしている。『やれることはやったよ』、あずさの顔は、そんなふうに見えた。
「ほら、差し入れ」
俺はいつものように、あずさに袋を差し出す。
「なになに? 開けていい?」
俺が開けていいという前に、あずさは紙袋の中身に手を突っ込んでいた。
「……あれ、またハーブキャンディ?」
あずさが口を尖らせる。
「ああ。大事な喉だろ」
俺はいつものように返した。

「……もういいの」

 あずさの表情が変わった。思い詰めた表情は、何か、決意を示しているようだった。
「あたし、歌、やめるから」
「……なんだって」
俺はあずさの口から出た言葉が信じられなかった。
「歌、やめるって……」
あんなに苦しんで、あんなに悩んできたのに、それを、こんなふうにあっさりやめていいのか、あずさ?
「うん……このコンサートで最後にするって、決めてた」
あずさがうつむいたまま言う。
「だから、もういいの。今まで応援してくれて、ホントにありがとう」
「……そんなにあっさりやめちゃっていいのか」
俺は聞いてみたが、
「うん。だって……いちばん聞いてほしい人に、聞いてもらえたから」
あずさが、わずかに微笑んだ。
「……」
俺に言葉はなかった。

9

 その夜、あずさが訪ねてきた。
「幸仁。ギター、弾ける?」
「いや」
俺の部屋に置いてあったのを、あずさが目ざとく発見していたらしい。
「……そうでもないか。一つだけ、弾けたな」
「そうなんだ」
あずさがうなづく。
「……ね、幸仁。もしよかったら、弾いてくれる?」
なんだろう。
「ああ、いいけど……」
俺は錆びたギターを取り出し、指だけが覚えている、あの曲を弾いてみた。
「……私から、あなたへ……」
突然、あずさが歌い始めた。その歌は、間違いなく、ギターが奏でる曲だった。……歌いながら、あずさの目から、涙がぽろぽろとこぼれる。俺も、記憶の糸が、すこしずつつながり始めていた。
「……幸仁」
歌が終わると、あずさが涙声で言った。
「覚えてる?」
「……ああ、思い出したよ……『切手のないおくりもの』」
俺がギターを習っていた理由。
「ふたりで、この歌を歌えたらいいねって……約束したんだよね」
「ああ」
「幸仁の伴奏で、あたしが歌うって」
「……ああ」

 あずさはあの頃から歌がうまかった。そのあずさが、歌を習いに行くというのを聞いて、俺とあずさは約束したんだ。俺もギターを習って、あずさの伴奏をしてやると。そのときに歌おうと決めていたのが、あの曲だった。……だから俺は、この曲だけは弾けるんだ。
「幸仁との約束、はたせたね」
あずさがまだ涙声で言う。
「ああ。あずさ、ありがとうな」
……俺の記憶を紡いでくれて。
「一番聞いてほしかった曲も歌えた……。あたし、幸せだな」
「だったら……」
歌はやめないでくれ……。
「でも、歌はもうつづけない。……だって、聞いてほしい人はひとりしかいないもの」
あずさがかぶりを振る。
「……」
沈黙が流れる。
「……だったら」
俺は必死に考えた。
「だったら……俺のためにも、歌ってくれないのか?」
「あ……」
あずさの瞳から、また涙がこぼれた。そして大きくかぶりを振る。
「そんなことない、そんなことないよ」
「そうか」
「……でも、ホントに全力投球しちゃった。あんな歌、もう歌えないよ」
「いいんだよ」
俺はあずさの頬を撫でて、涙を拭った。
「俺は……あずさの気持ち、あの歌からいっぱい受け取った。気持ちを込めたら、またきっと、いい歌が歌えるよ」
「幸仁……」
「な。だから、歌やめるなんて、寂しいこと、言わないでくれ」
俺はもう一度だけ言ってみた。
「……ううん、歌はホントにやめる。もう、コンサートには出ないの」
やっぱり止められないのか……。

「聞いてほしい人はひとりだけ。だから、その人のためだけに歌う。ね」

 そういってあずさは、俺の胸に飛込んできた。
「あずさっ……」
あずさを抱き止め、俺は髪を撫でてやった。
「……ありがとう」
俺にそれ以上の言葉はなかった。
「幸仁のこと、大好きだから……」
あずさが、俺の腕の中で、また、ポロポロと泣いていた。

 ……歌姫引退が報じられたのは、それからすぐのことである。

第4章 -- 雪のテラスから -- 一月六日

1

 学校の裏山にあるテラスからは、街がよく見渡せる。雪のあとの街は、一面白く、真ん中を流れる川だけが黒く見える。山の木々も白い。吐く息も白い。なにもかもが真っ白で、まるで生きているのが自分だけのようだ。
「……ここにいたんだ」
下から、白い息を吐きながら、誰かが上がってくる。
「幸仁、好きだもんね、ここ」
「……あずさか」
「うん」
人影が、ようやっと木の向こうから見えてきた。さくさくと雪を踏みしめる音が聞こえる。
「なにか面白いものでも見える?」
いつのまにか真下に来ていたあずさが聞く。
「いや……行く河の流れは絶えずして、しかも元の水にあらず」
俺は適当にごまかしてみた。
「……? なに、わけわかんないこと言ってるのよ」
あずさが、小首をかしげる。どうやら通じなかったらしい。しょうがねえな。
「なんか、用か?」
聞いてみると、あずさがこっくりとうなずいた。
「うん。お姉さんがね、呼んでた。話があるって」
姉貴が?
「わかった、すぐ降りてく」
そういいつつ俺は、テラスから飛び降りると、山の急斜面を一直線に駆け降りた。
「ひゃん! ま、待ってーっ」
あずさの声が後ろから追い掛けてくるが、俺は、
「おまえはゆっくりくればいいって。転ぶなよ」
と叫ぶのが精一杯だった。ちょっとコントロールが狂えば木にぶつかりかねない、危険な遊戯。あずさにはおすすめできない。

 ……雪に足をとられて、少々やばかったが、どうにか無事に切り抜けた。
「姉貴ーっ」
うちに帰りついて、一声かけると、中から応答があった。
「受験生がなにフラフラしてるかな、幸仁」
「気分転換。いいじゃねえか」
やな姉貴だなあ。
「そういうことならさ、幸仁。あずさちゃんつれて、初もうで行ってきたら?」
突然、姉貴が変な提案をする。
「は?」
そんなことはどうでもいいんですが。
「喜ぶと思うよ、あずさちゃん」
「……いやそれより。用事って何?」
そうなんだよ。姉貴が俺を呼んだんじゃなかったのか?
「帰ってきてからでいいわよ。それより、あずさちゃんは?」
ごまかすなよ、姉貴。
「……あとから来るだろ」
「あれ、なによあんた。置いて来ちゃったの?」
姉貴の声のトーンが変わった。
「ついてこれねえからな」
「バカねーえ……」
なんか、とことん小バカにしたような声。
「だいじょうぶだろ、ゆっくり来いとは言っておいたから」
「そういう問題じゃないでしょう」
……あれ、姉貴、怒ってるぞ。

 そうこうしていると、
「……はあ、はあ、幸仁、置いてくなんてひどいよー」
あずさが息急き切って入ってきた。
「あ、あずさ?」
「ほら、言った通り」
ようやく奥から出てきた姉貴が、また俺をバカにする。
「お疲れさま、あずさちゃ……あらっ、雪まみれ! 大変、たいへん」
……あずさはどこかで転んだのか、ひどく雪まみれだった。
「だからゆっくりでいいって言ったのに……けがとかしてないよな?」
俺が声をかけてみると、
「うん。なんともないよ」
あずさがうなづく。どこかをすりむいたとか、そういうことはなさそうだ。単に吹きだまりに突っ込んだだけだろう。
「幸仁! あんたがゆっくりくればいいのよっ」
姉貴がどなる。
「お姉さん、おねえさん。まあまあ、あたしもあたしだから」
あずさが手を振るが、
「まったく幸仁ってば。あずさちゃんもあずさちゃんよ、あんまり甘やかしちゃダメだからね」
姉貴がなんかロクでもないことを言う。
「え、その、あまやかし……ってそんなあ」
なぜかあずさがその言葉に反応して赤くなる。なんでだろう。
「……にしてもベタベタだな。あずさ、風呂でも借りてけ。な」
「うん」
風邪をひいたりするといけないからな。

 あずさがシャワーを浴びている間に、俺は一応、姉貴に頼んでみた。
「姉貴、わりいけど、また姉貴の服貸してやってくれ」
「わかってるわよ。……あ、いいこと考えた」
姉貴、顔がにやけてるぞ? 何を考えてる?
「……あずさちゃあん、上がったらそのまま二階へおいで。バスタオルでいいから」
「は、はーい」
ば、バスタオル? ……い、いかん、つい想像してしまった。うぷ。
「幸仁。顔、赤いぞ? ん、想像しちゃった? あずさちゃんの、バスタオル姿☆」
「う。うるせえっ」
「あはははーっ」
こういうときだけ鋭いんだもんな、姉貴ってばよ。

2

 それから30分後。階段を降りる音がした。そして、
「幸仁、おまたせ☆」
と呼ぶ姉貴の声がした。そっちを向いてみると……
「……あ、あずさ?」
そこには、緋色の振袖に身を包んだあずさが立っていた。いつのまにか、髪まで結われて、髪飾りまでつけられている。恥ずかしいのか、緊張するのか、少し頬を赤らめて、うつむいている。
「どお、幸仁。似合うでしょ」
姉貴が自慢そうに言う。
「あ、ああ……」
さすがの俺も、動揺は隠せなかった。初めて見る、あずさの振袖姿。色使いといい、すその模様といい、まるであずさのためにあつらえたもののようだ。
俺は言葉を失っていた。いや、こんなのが俺の語彙で表現できるとは思えなかった。

 ……だが、なんか奇妙な違和感を感じる。どこかで見たような気がするんだが、気のせいだろうか?
「なんとか言ってあげなさいよ、幸仁」
まだ顔をあげられないあずさに代わって、姉貴が文句を垂れる。姉貴が……。
「あ! そうか、そういうことか」
俺は思わず声を上げていた。
「な、幸仁、何よ急に」
「その着物……姉貴のだろ」
そういうことだ。道理でどこかで見たと思ったわけだ。
「あ、わかった?」
姉貴がぺろっと舌を出した。
「でも、今はあずさちゃんが着てるの。あずさちゃんの振袖なのよ」
……それもそうか。今は、あずさの着物、か。
「幸仁?」
まだうつむいたままのあずさの口から、ようやく言葉が漏れた。
「どう……かな」
「どうかなって、そりゃあ……その」
……言葉にならない。
「あの……」
わかってるけど、どうしても言えない。どうしてなんだろうな。ほんの、たった一言なのに。唇は動くけど……言葉にならない。『似合うぞ』って。……そんな陳腐な言葉で表わしたら、言葉がイメージを規定してしまいそうな気がして。
「それよりあずさ、初もうで行こう、な、初もうで」
いたたまれなくなった俺は、とにかくその場を収めることにした。
「あ……うん」
「姉貴、サンキュ! あとよろしく、俺、出かけてくるから」
「あちょっと幸仁! んもう、しょうがないなあ……」
俺とあずさは、その場を逃げるように出ていった。姉貴を残して。

3

「……ふぅ。ごめんなあずさ、なんかどたばたしちまって」
「ううん、いいよ。いつものことだし」
「あはは、いつものことかあ」
「うん」
俺とあずさは、近くの神社に来た。近くと言っても、ずいぶんと大きなお社で、遠くからも参拝客が来るらしい。
「にしてもなんだ、人が多いな。はぐれるなよ」
「うん」
あずさはうなずくと、俺の手をぎゅっと握った。
「……え」
「これならはぐれないもん。えへっ」
……なんだろう、なんだかすごくどきどきする。
「あ、ああ。まあ、いいけどな……」
あずさの顔が、まっすぐ見られない……。

4

 人の波に押されるように本殿の前に来ると、俺とあずさは、お賽銭を投げ、柏手を打った。今年もあいつと俺にいいことがありますように。
「幸仁、何を願ったの?」
あずさが聞く。
「んー……あずさ、願い事ってな、人に言うとかなわないんだと」
俺は取り合わないことにした。
「あーっ。幸仁、やっぱりいじわる」
「そのかわり、おまえのも聞かないから、あいこな」
「うー。ずるいよ」
あずさが口を尖らせる。聞いてほしかったのか?……でも、俺の願いを聞かせるのは、ちと恥ずかしいからな。

「することしたし……行くか」
俺が言うと、あずさが待ったをかけた。
「あ。待って。おみくじ引いていこうよ」
「おみくじか……」
今年は俺もあずさも受験生。わらにもすがりたい気持ちもないわけじゃない。そうだな、たまにはいいか。
「俺はこれか」
「あたしはこれ……と」
俺とあずさ、それぞれに1枚ずつ、おみくじを引いた。末吉。今はあんまりよくないってことか。
「……どうだった」
「幸仁こそ」
「俺? 俺は……末吉。まずいかも」
……あずさには言わなかったが、『人事、試練の時。』ともあった。
「あたしは吉。まあまあかな」
「そっか。じゃあ……」
俺とあずさは、近くの榊におみくじをむすびつけた。ほんとはいけないらしいが、榊にはずいぶんとおみくじがぶら下がっていた。
「みんな、同じこと考えてるんだな」
俺は榊を見上げながらつぶやいてみた。
「……幸仁、おみくじを榊に結ぶって意味、知ってる?」
「いや?」
何だろう。
「あのね、こうやって結んでおくと、神様と縁が結ばれるんだって。それで、幸運を授けてくれるようになるって」
「なるほどなあ。みんな、現世利益か」
「うー……幸仁のいじわる」
な、なんでだよ。

 本殿の階段を降りると、神社の法被を着た人たちが、甘酒を配っている。毎年、同じように配ってくれるが、たまにしかもらったことはない。たまにはいいのかもしれんな。
「あずさ。甘酒、もらっていこうか?」
「うん」
あずさがこっくりとうなずく。
「すいません」
俺が氏子に声をかけると、
「あいよ、二つね」
と、椀を二つ、差し出してくれた。
「……ほら、あずさ」
俺が受取り、一つをあずさに差し出すと、
「うん」
あずさが微笑む。

「あったかいね」
「ああ」
あずさとふたりで、甘酒をいただく。ここの甘酒は、まるで甘くなく、酸っぱいばかりなのだが、これを飲むと、なんとなく正月気分になれる。あずさは、予想通り渋い顔をしながら、でもなんとか飲んでいるようだ。甘いもの好きだからなあ、こいつは。
「……ごちっす」
俺は空になった椀を返した。
「ありがとうございましたー」
「……うー」
あずさの方を見ると、まだ、半分くらい残っていた。
「しょうがねえな。酸っぱいもの、苦手だもんな」
「う……いじわるぅ」
あずさが口を尖らせた。
「ま、ゆっくり飲め。冷めるけど」
俺が言うと、
「もー、いじわるーぅ」
あずさがますます口を尖らせる。
「お嬢ちゃん。冷めたら、足そうか」
氏子まで何やらけしかけるし。
「おっちゃんおっちゃん、わんこそばじゃないんだからさ」
「あははは」
しょうがねえなあ。
「はうーっ」
あずさが困った顔をしているな、と思ったら、急にまじめくさった顔になった。
「……ごくっ」
な、何をする気だ?

 ごくっ。ごくっごくっごくっ。ぷはっ。

 あ……あずさのやつ、甘酒の残り、一気に飲みやがった。
「あたしだって飲めるんだもん。あんまりバカにしないでよねー」
あずさが俺をにらみつけながら言う。……口の回りに酒粕つけていうセリフじゃないが。
「あ、ああ。たいしたもんだ。……おっちゃん、ごち」
「ど、どうも」
あずさの剣幕に、氏子もちょっと押され気味だ。
「幸仁、いこ」
「ああ」
ちょっと怒ってるのか、あずさの顔が赤い。

「ぷはー。なんだか、あついよ」
少し赤い顔のまま、あずさが言う。
「そりゃあそうだろ。あったかい甘酒飲んだんだから」
「そうだねー」
あずさの笑顔が光る。それはいいんだが……。
「お、おいあずさ。なんかフラフラしてないか?」
「うん? 全然平気だよー」
そういう矢先から、小石にけつまずいて転びそうになる。
「……大丈夫かあ?」
なんか心配だぞ。
「幸仁……腕、くんでいこっ」
「はぁ?」
「ほらほら、腕とーったっ」
そういうが早いか、あずさは俺の腕にしっかりとしがみついた。ふにっとした感触が、俺の腕に伝わる。こ、これって……。
「ふふふ。幸仁、だーいすきっ」
へ? あ、あずさ、こんな大勢の人の前で何言い出してるんだ、おい?
「ふあ……」
突然、あずさが生欠伸をする。
「お、おい! んなとこであくびなんて、どうした」
「んにゃー」
あずさが変な音を立てて、俺の腕にぶらさがる。あずさの体重が、ずっしりと腕にかかる。
「くあっ……!」
「幸仁、ねむい……」
あずさの目がとろんとしてきた。うわっ、やばい……。
「はうー……」
「んが! あずさ、寝るんじゃないっ」
俺はあずさをひきずるように、うちへ向かって走り出した。

5

 うちにつくころには、あずさはすっかり寝ぼけていた。
「ふにー……」
変な音を立てて、今にも崩れそうだ。とりあえずこたつに放り込んで、上から毛布をかけてやる。
「眠いの……おやすみー」
そういうが早いか、あずさは本格的に寝てしまった。すうすうと寝息が聞こえる。
「……どうしちゃったの? あずさちゃん」
寝たところで、姉貴が顔を出す。
「わからん。神社で甘酒もらってきたら、この調子で……」
俺が首をかしげると、
「ば、バカ!」
なぜか姉貴がどなり出した。
「あそこの甘酒は本格酒粕入り、アルコール入りなのよっ。あんたたちがもらっていいものじゃないわよ」
「はへ?」
そんなこと、聞いたことないぞ。
「まったく、そんなことも知らないなんて。……そういや幸仁、あんたよく平気ね」
「お。なんでかな」
姉貴は酒に強い。なにせ、『枠』とか言われてるらしい。ということは、俺もかも知れないな。
「まあいいけど。あずさちゃんは……ほーんと、全然ダメみたいね」
「ああ」
となりで寝こけているあずさを見ながら、俺と姉貴は少し笑ってみた。

「幸仁……」
あずさが寝言を言っている。
「幸仁……さよなら……」
さよならってなんだ?

「幸仁、あんた他人の夢の中で何しようとしてるのよ」
姉貴が言うが、俺にもわからん。
「……夢の中の俺まで責任とれるかっての」
「とんなさい」
「待てコラ」
姉貴も無責任だよなあ。ったく。

6

 それから、小一時間もしただろうか。
「あ……うーん……」
あずさが起き上がってきた。
「あ、あれ……ここ、どこ?」
まだ寝惚けているらしく、半分寝ながらたずねる。
「俺んち」
「あれ……あたし、どうしちゃったんだろう」
あずさが小首をかしげた。
「神社へ行ったことは覚えてるか?」
俺が聞いてみると、
「うん……甘酒もらったことまでは覚えてるんだけど、そのあとが……」
「あははは!」
姉貴の笑い声が聞こえた。
「お、お姉さん、なんですかぁ!? あ、あたし、何かしちゃったんですかぁ!?」
あずさがあわてる。
「んー、なんでもないなんでもない」
「でもでもぉ」
そりゃ、あれだけ爆笑されれば気になるよな。あずさの身にもなってやれよ。

 ……俺と姉貴は、ことの顛末を話してやった。姉貴が話をふくらまかそうとするところを、俺が必死のツッコミで食い止めつつ。
「そっか……あれ、お酒なんだ。あたしも全然知らなかった」
あずさが興味深そうな顔をする。
「というか、知ってたら『もらおう』なんて言わねえし、あずさだって止めるだろ」
俺も同調する。
「うん」
「……姉貴がいたら、知ってて飲ませたかもしれんな」
ネタをふってみると、
「こらっ、幸仁」
予想通り、姉貴がツッコむ。
「幸仁、お姉ちゃんをそんなふうに言っちゃダメだよ」
「いや、なにせ姉貴は『枠』だからな。あれくらいのアルコール、水同然だろ」
「そうだけどねー……って幸仁っ」
「あははは」
あずさが笑う。それに釣られて、俺も、姉貴も笑い転げた。

 ひとしきり笑ったあと、
「あ、そうだ……お姉さん、ごめんなさい」
あずさがぺこっと頭を下げた。
「なに? あずさちゃん」
「お振袖。ほら、しわになっちゃった」
俺がこたつに放り込んだから、せっかくの振袖もしわが入ってしまっている。とはいえ、脱がせるわけにも……うぷ。あかん、変な想像してしまう。
「ううん、しょうがないわよ。あ、それで思い出した、服、乾いてるわよ」
姉貴は笑ってごまかしているが、後始末は大変そうだ。
「……いつもいつもすみません」
あずさが頭を下げる。
「じゃ、着替えるなら、二階に行きましょう」
「はい」
そういうと、あずさが二階へ上がる。
「幸仁」
姉貴は俺を見て、ひとこと。
「……あずさちゃんに免じて、便所掃除一週間で、勘弁してあげるわ」
あ、姉貴、どういう意味か、そりゃあっ!

 しばらくすると、あずさと姉貴が階段を降りてきた。降りてきたあずさは、こんどこそ、いつものあずさだった。
「ん、お疲れ」
俺があずさに声をかけると、
「お疲れって?」
あずさがよくわからないという顔をする。
「うん? いや、振袖って着るとかなり疲労するって聞くからさ。姉貴なんて体力ないからもう着れないんだと」
「幸仁っ……嘘じゃないのがイヤだなあ。あーあ、トシってやあね」
姉貴が嘆く。これにはあずさも、なぐさめの言葉も見つからないようだ。
「だ、だいじょうぶよお姉さん。着ようと思えば着られるんでしょう?」
半ば苦笑しつつも、あずさは姉貴を気づかう。
「んー……もう無理。だから、あずさちゃんが着てくれて、うれしかったりするのよ」
姉貴が微笑む。
「あ、ありがとうございます」
あずさが頭を下げた。
「……よかったなあずさ」
俺が言うと、
「幸仁。もとはといえば、あんたがあずさちゃん置いてきちゃうのがいけなかったんでしょっ」
姉貴にエラいとこまで巻き戻されてしまった。
「だから、便所掃除一週間」
……うへー。まいりました。

「じゃあ姉貴、さらに巻き戻すけど、もともと、姉貴が俺を呼んでたんだろ?」
「あ、そういえば」
「何だったんだ?」
……そう、すっかり忘れられているかも知れないが、もともと姉貴が俺を呼び出したのが、ことの始まりなのだ。
「うん……あんたたちの進路のこと」
「ああ、そのことか」
あずさも俺も、進学希望。
「……あずさは、東京の私学へ行くって言ってたよな」
「うん」
あずさがうなずく。
「俺も上京するつもりだが……国公立だよな」
俺がぼやき気味に言うと、
「そうね。うちの財政から言ってもね」
姉貴がうなづく。
「まあ、願書出すまではじっくり考えなさい」
「ああ」
……結論は、まだ出ていない。

7

 もう日が落ちていた。
「おねえさん、幸仁、あたし、そろそろ帰るね」
あずさが席を立った。
「あ、あずさちゃん。夕飯くらいいいのに」
姉貴が引き留める。
「ううん、おうちのお手伝いもあるから」
あずさが手を振る。
「そう……あずさちゃん、いいコね。こいつなんて全然手伝わないんだから」
姉貴が俺を指さす。
「うぐ」
「あは。じゃあ、またね」
「あずさ」
こんどは俺が引き留める。
「なに?」
「……送っていこうか」
「あ、うん」
……聞きたいことが、ひとつだけあった。姉貴には聞かれたくないこと。

「……あずさ」
「なに?」
「一つだけ聞いていいか。……何か俺、夢の中で変なことしてた?」
俺は気になっていた。あずさの寝言。さよなら……って、何があったんだろう。
「え?」
「うん……あずさ、寝言でな、『幸仁、さよなら』って言ってたんだ」
「あ、あたし、そんなこと言ってた!?」
あずさがばつの悪そうな顔をする。
「ああ。しっかり、聞いちまった」
「……そう」
思い当たる節があるらしい。だが、すぐに笑顔を作って、あずさは言った。
「でも、やっぱり内緒」
あずさが少し寂しそうな顔をする。
「内緒、か。……なんか、変なことしてたわけじゃないみたいだな」
「あ、そんなこと全然ないよ。うん」
あずさがあわてて否定してくれる。よかった。とりあえず、ほっとした。
「ちょっとくらいなら、してもいいよ……」
「え?」
「え、あ! な、な、なんでもないっ」
急にあずさの顔が赤くなった。

「風邪引くなよ」
「うん。幸仁こそ」
「じゃ、おやすみ」
「うん、おやすみっ」
……ぱたん。

 冬の夜風は体にしみる。俺はあずさを家まで送ると、ひとり、帰り道を急いだ。心の中に微妙なひっかかりを残しながら。
「なんでもなかった……か」
俺にも内緒のこと、か。たしかに、俺はあずさじゃないし、あずさは俺じゃない。だから、秘密のことがあったって、不思議じゃない。それでいいんだ。……それが、俺のことであったとしても。俺は、あいつを信じていけば、それでいいんだ。

 あずさ、入試まで時間ないよな。がんばろう、おたがい。

第5章 -- チョコレート・ハート -- 二月十四日

1

「……むー」
俺は、あずさにもらった小さな箱を前に、うなっていた。

 昨日のことだ。俺は学校で、あずさに呼び止められた。
「幸仁あのね……明日、学校にいる?」
「いや。悪いけど、いない」
俺はかぶりを振った。
「なんで?」
あずさが小首をかしげる。
「今晩から、横浜へ行くから」
もう、入学試験本番、真っ最中。受験のための欠席者も多数いて、授業にならない。
「……そうなんだ」
残念そうに、あずさがつぶやく。
「終わったらすぐ帰ってくるけど」
「こんどはあたしが行っちゃうから……」
ちょっと気を落としたふうに、あずさがつぶやく。……たしかに、こんなときに一緒にいられないのは、俺もちょっと残念だ。明日は二月十四日。期待はしちゃいけないが、でも、期待するじゃないか、なあ兄さん(って誰だ)。
「……しょうがないよ、うん、しょうがない」
あずさが、自分に言い聞かせるように、一度かぶりを振った。それから、鞄から何か取り出した。
「いないならしょうがないね。じゃあ、これ、あげるね」
差し出されたそれは、リボンがかかった、赤い箱だった。
「……それって」
「バレンタインチョコ。……明日いないんじゃ、仕方ないよ」
あずさの顔に、残念さがにじみ出てる。……あずさの寂しさを埋めてやれるよう、せめて、精一杯喜んでやろう。
「そうか。俺、宇宙一の幸福者だな、あずさからチョコもらえるなんて」
「え!? あ……そ、そこまで言わなくても」
あずさが顔を赤くして、うつむいてしまった。
「ありがとう、あずさ……俺、そろそろ行くな」
俺はもうひとことだけあずさに声をかけた。
「うん……」
ありがとう、あずさ。

 ……俺の目の前には、そうしてもらった箱がある。この箱を開けるべきかそうでないか、俺は木賃宿でうなっているのだった。明日は試験だというのに。
「ぐむー……」

 結局よく眠れないままに、箱もそのままに、俺は入試会場へ向かった。
……結果は聞くな。聞くなってば。

2

 試験が終わって、俺は駅に向かった。
「……ふぅ」
ため息が出る。こりゃあ、第2志望も危ういぞ、俺。

 鞄のなかにしまってあるきっぷを取り出そうとしたとき。……中から、赤い箱が落ちた。
「あっ……」
あずさにもらった、バレンタインチョコ。
「そうだ……これ、今日なら開けてもいいよな」
俺はそいつを、列車の中で開けることにした。

 ……席を確保し、俺は一息つくと、もういちど例の箱を取り出す。中身は……お、チョコレートだ。って、当たり前か。ハートの形をした板チョコに、白い文字で、『Dear Kouji』と書いてある。……恥ずかしいやつめ。人には見せられねえよこれ。
「ったくなあ」
恥ずかしいので、特に姉貴に見られる前に食っちまうことにした。証拠隠滅。……と思ったところ、蓋の裏に手紙が貼りついていた。
「……なんだろな」
あいつも変なところに凝ってるな。
「どれ」

 幸仁へ。

 ハッピー・バレンタイン。試験、がんばってね。

 ……急だけど、どうしても聞いてほしいことがあるの。

 あたし、神戸の学校を受けることにしました。
この学校なら、あたしのやりたいことがやれることがわかったの。
だから、受かればだけど、あたしは神戸に行きます。
また、わかれわかれになっちゃうね。

 幸仁、あなたも、やりたいことをやってほしい。
あたしのことは、置いていっていいから。

 瀬名あずさ

「……」
俺が受ける学校は、みんな関東にある。……つまり、あずさがいうことが本当なら、またわかれわかれになる。

 手紙の字は、少しふるえていた。そして、片隅に、涙のしみが残っていた。あいつ……どれだけ苦しい思いをして、決断したんだろう。それにしても、直接言えばいいのに、なんで手紙にしたんだろう。そんなこと言って、俺が引き留めるとでも思ったのか?

 そこまで考えて、ふと正月のことを思い出した。
『幸仁、さよなら……』今更ながら、あの言葉の意味が気になってきた。……つまり、あの頃にはもう、神戸行きを考えていた、ってことだろうか。だとするとなおさら、なぜ黙っていたのか、気になる。

第6章 -- 十八年の証 -- 三月二十日

1

 泣いても笑っても、制服を着て学校へ来るなんてことは、これが最後。……そう、卒業式。卒業証書をもらったら、俺もあずさも、ここの生徒じゃなくなる。若干寂しいものがあるが、俺は少なくとも、四月からの新生活に、胸を踊らせていた。

「瀬名あずさくん」
「はいっ」

「若葉幸仁くん」
「はい」

 一枚一枚、手渡される証書。これが俺の3年間の証。そう思うと、ただの紙切れなのに、ずっしりと重かった。

 教室で、最後の終礼、そして最後の成績書。もう持ち帰るものなどないはずだったが、いつのまにか増えた若干の荷物を背負い、俺は教室を出た。
……あずさが向こうから、うつむいたまま歩いてくる。
「あずさ」
俺は声をかけてみたが、反応はない。
「……あずさ」
もう一度声をかけてみたが、やっぱり反応はなかった。

 俺は先回りすると、校門のところで待ち構えてみた。
「……」
うつむいたまま、あずさが来る。
「あーずさ」
俺は努めて明るく、肩をポンと叩いてみた。
「ひゃっ」
本気で驚いたらしい。髪がふわっと広がる。
「……幸仁」
「どうしたあずさ。元気ないな。……卒業、おめでとう」
俺が声をかけてみても、
「……うん」
あずさはうなづくだけだった。
「もう……なかなか一緒に帰れないからな。一緒に帰ろう」
そういって俺は、あずさの背中をポンと押した。
「……」
あずさは無言で歩き始めた。

2

「いろんなこと、あったな」
何も話そうとしないあずさに、俺はひとりでしゃべり続けた。
「予備校、学園祭、コンサート、受験……」
「……」
「受験はしんどかったけど、でも、楽しかったよな。学校」
「……」
「コンサートもすごかったよな。観客の誰ひとりとして、帰ろうとしなかったんだもんな。あれがあずさの実力なんだよな。すげえよ」
「……」
「学園祭の時でも、ホントにあずさはすごいやつだと思った」
「……」
「……あずさ、俺な」
「……」
あずさはうつむいたままだった。
「ホントに、おまえと再会できてよかったと思ってるよ。ホントに」
「……」
「また、離ればなれになっちまうけどさ。大丈夫だよな」
「ホントに……そう思ってる?」
あずさが突然、口を開いた。
「ねえ幸仁。ホントに、離ればなれになっても平気なのっ!?」
……あずさは泣いていた。目にいっぱい、涙を浮かべていた。
「あ、あずさ……」
「あたし、いや。自信ないの。……だから、会わないようにしてた」
あずさが目線を落とす。
「引っ張れば引っ張るほど、つらくなるから、か?」
「……うん」

 そうか。
あずさがあえて手紙という手段を使ったわけ。
「バレンタインの時の、手紙な。珍しいとは思ったんだ」
「……」
「俺も不安がないわけじゃない。毎日会えるほうが、そりゃあいいよな」
俺は、本心を打ち明けた。
「……幸仁」
「だけどな。たった六百キロじゃないか」
「……たった?」
あずさが顔をあげた。
「ああ、たっただ。絶対会えない距離ってわけじゃない。世の中には、もっと遠い距離の人たちだっているわけだ。それに比べたら……ホントに、たったじゃないか」
「……遠いよぉ」
あずさが不安を膨らませている。……俺にもわかる。
「あずさ……不安か」
「うん」
細い肩が、かすかにふるえている。俺にだって不安がないわけじゃない。……でも、俺は考えたんだ。あいつにしてやれることが、ひとつあるって。
「俺な……あずさ、おまえのこと、好きだ」
「!!」
あずさの背中が、びくっとした。
「学園祭の時のおまえ、コンサートのときのおまえ……すごく、かっこよかった。最高だったよ。ホントに」
「……幸仁?」
不安なのか、あずさは顔をあげない。
「俺な。おまえは、ホントにすごいやつだと思ってる」
「そんなことないよ。誰だって、やればできるんだから」
あずさがかぶりを振った。
「いいやあずさ。おまえは、誰もやらなかったことをちゃんとやった。それだけでも、すごいことなんだ」
「……」
「だから、俺は東京へ行く」
俺はあずさの肩を抱いた。
「あずさが、俺のこと、すごいって思ってくれるために、な。俺が、あずさに、釣り合いの取れるように」
「幸仁……」
あずさが、顔をあげた。
「あたし、幸仁に助けられてばかりだったのに……なんで」
「そう思うのか?」
「うん……」
自信なさげに、ちいさくうなづく。
「だったら、これから頑張ればいいじゃないか。おまえが、俺といっしょにいられるように、4年間、自分を磨くんだって」
「……」
「4年は長いけど……俺はおまえに負けないように、頑張る」
「幸仁……」
あずさがうなづいた。
「あたしも、幸仁に負けないよ。絶対いい女になってやるんだから」
……あずさに笑顔が戻ってきた。
「幸仁もいい男になってなかったら、許さないよ」
「ああ。約束だな」
おれも笑顔を返す。
「約束……うん」
あずさがうなずいて……
「……あずさ」
俺の手が、あずさの頬を撫でて……
「幸仁……」
あずさが瞳を閉じて。

 ……約束は、誓いとなった。

3

 次の日。

 たまにはいいかと思って、俺はあずさの家を訪ねてみた。
……ぴんぽーん。
「あ、幸仁だーっ」
二階の窓から、あずさが顔を出した。
「上がっておいでーっ。あたしもすぐ降りてくからーっ」
そういうと、あずさは顔を引っ込めた。中からどたばたという音がする。
「……ぷっ」
まあいいか。あずさらしいっちゃ、らしいし。

「こんにちは。おじゃまします」
あずさのうちに来るのは、これが初めてというわけではない。……小さい頃は、よくお互いのうちを行き来していたものだ。
「よく来てくれたね」
なぜか、あずさはうれしそうだ。
「いや、まあ……あんまり時間もないしさ。たまには、いいと思って」
俺はちょっと答えにつまる。
「えー……たまには、なの?」
あずさが口を尖らせる。俺にも、思い当たる節がないわけじゃない。
「そういやそうだな。いつもあずさのほうから訪ねてきてばっかだな」
「そうだよお」
あずさがすねる。
「悪い」
俺は素直に頭を下げた。

 せっかくだしな。聞いておこう。
「また、来ていいか?」
「うん……といいたいところだけど」
あずさの表情が暗くなった。
「ん?」
「あたし、今日、引っ越しちゃうから」
「え」
突然だった。……しかしそれは、予期された出来事のはずだ。
「もう、向こうの部屋も決まってるの。学生寮だけどね」
「そっか」
「……だからホントは、あとでたずねていこうかなって思ってたの」
「そりゃ、悪いことしたな」
「ううん、いいよ。結果的に会えたんだもん」
「そうだな」
……寂しそうな表情をするなよ。こっちまで寂しくなる。

「そうだ。あたしの部屋、見てく?」
あずさが突然、そんなことを言い出す。
「え?」
「もう、しばらく見られないから。どうする?」
「あ、ああ……」
よくわからないが、見て損するものでもないよな……?

 あずさと俺は、階段を上がった。
「こっちだよ」
「ああ」
……指し示された部屋は、もうもぬけのからだった。
「なあんにも、ねえな」
「うん。荷物、もってっちゃったあとだもの」
「そうか」
部屋に入ってみると、ほんのわずかだが、ふわっと薫るものがあった。なんだかはわからない。本当にほんのわずか、何か落ち着く香りがした。
「小さい頃はよく、ここでも遊んだね」
「そうだね」
「見てほら。こんなところに傷があるでしょ」
……たしかに、壁に傷あとが、何カ所か残っている。その近くに、シールのあともある。
「これ、幸仁がけっとばしたり、シール貼ったりしたあとなんだよ。後始末、けっこう大変だったんだから」
「うわ……わりい」
「ふふっ。もう、昔のことだけどね」
「そうだな……そういやあずさ、この傷あとはおまえの……」
「え?」

 ものは何もなくても、思い出だけは、次々とよみがえってくる。たしかに、ここには、途中とぎれたけれど、俺とあずさとの思い出があったんだ。

「あはははっ……幸仁、笑いすぎだよぉ」
「ははは、悪い悪い」
いろんな思い出を語ったあと、急に言葉がとぎれた。
「はぁ……」
「……」
……最後の時間なのに、一分一秒が惜しいのに、何もできないでいる。俺はそれが少し惜しくて、あずさのとなりに座り直した。
「……ん?」
「あずさ……」
「なに? 幸仁」
俺はあずさの肩を抱いた。
「あっ……」
あずさが小さな悲鳴をあげる。
「ちょっとだけ……こうしてて、いいか」
「……」
「おまえのこと……俺の腕に、覚えさせたいんだ」
手に感じられるあずさの肩は、あたたかくて、細かった。
「……うん」
そういうとあずさは、俺の方にゆっくりと向き直った。そして、俺の胸にすっぽりと収まった。
「あたしも、幸仁の胸の大きさ、覚えておくね」
そういいながら、あずさは俺に体重を預けた。その重みが、心地好かった。

 玄関で物音がした。
「きゃっ……」
あずさは、聞こえるか聞こえないかくらいの小さな悲鳴をあげて、俺から飛びのいた。
「あ、ごめん……」
うつむくあずさ。
「いや……」
俺の心臓にも悪かった……。
「あずさー……お客さんなの?」
下の方から声がする。おばさんの声だな、きっと。
「あ、うん。幸仁」
「へー。こんばんはー」
「あ、おじゃましてます」
「どうぞどうぞ」
……とは言われたものの、もう遅い時間だった。
「……こんな時間かあ。帰らなきゃなあ」
「……うん」
あずさは寂しそうだ。いや、寂しくないわけがないよな。
「あずさ」
「うん?」
「約束、したよな。俺もおまえも、夢をはたすために、遠くに行くって」
「……うん」
「でも、気持ちはいつだってそばにいる。な」
「うん」
この手に伝わる、あずさの温もり。絶対忘れないように。なくさないように。……俺は、もう一度だけ、あずさの頬を抱き寄せた。
「あずさ……」
「……幸仁」
そしてゆっくりと、唇を重ねた。
「ん……」
唇を放すと、あずさの瞳から、大粒の涙が、ポロポロとこぼれ落ちた。俺だって泣きたかった。
「あずさ……また会おうな」
だから俺は、努めて明るく言った。
「また……うん、絶対、また会おうね」
あずさも答えてくれる。
「ああ、約束だ」
「約束だね」
……ぎゅっと握られた手の感触が、いつまでも胸に残る。

「俺、帰るよ」
「うん」
夕暮れ時のなんにもない部屋に、あずさをひとり残し、俺は階段を降りた。
「……おじゃましました」
「あら、若葉くん。帰るの?」
おばさんが声をかけてくれた。
「ええ」
「そう……あずさのこと、よろしくお願いしますね」
そういっておばさんは微笑んだ。あずさの微笑みと、実にそっくりだった。あの優しい微笑みは、親譲りだったんだな。
「……はい」
俺は頭を深々と下げると、ゆっくりと外へでた。二階を見上げると、あずさが顔を出していた。
「幸仁、またねーっ」
あずさが手を振ってくれる。
「ああ、また会うぞーっ」
俺も負けずに手を振り返した。
……どうしても、ホントにどうしても、『さよなら』とだけは言いたくなかった。

 あずさのうちが見えなくなるまで、俺は手を振り続けた。……もう、明日から、あいつのうちへ行っても会えないんだ。そう思うと、やっぱり少し寂しかった。

 俺ももうすぐ引っ越してしまう。思い出のいっぱいつまったあの家から、見知らぬ街へ出て行く。俺も不安だ。あずさだって不安だろう。だが、その不安は、きっといつか、喜びに変わる。何の根拠もなかったが、俺はそう確信していた。

 あずさ。今は離ればなれになるけど、またいつか会える。そのとき、俺もあずさも、どんなふうに変わっているか、楽しみだよ。

 ……夢、かなえような。

第7章 -- 一月十七日

 俺は東京で独り暮らしを始めた。物価が高いだの、学校が駅から遠いだの、しかも山の上だのと文句はいくつもあるが、新しい生活は新しい生活で楽しいものだ。あずさはあずさで、神戸暮らしを楽しんでいるようだ。たまにはお互いたずねていこうな、とは言っているものの、学生身分の悲しさか、両方とも貧乏で、そう簡単には会えない。もっとも、会えないなら会えないで、卒業してからが楽しみだと、俺はそう思うことにしている。

 一月十六日、午後11時。
「……それじゃあ、また明日電話するな」
「うん。じゃあ、おやすみなさい」
「おやすみ」
いつものように電話をして、何気なく電話を切った。

1

 一月十七日、午前6時。
電話が鳴った。
「ふあい……若葉です」
「もしもし、幸仁っ!?」
姉貴の声だった。
「いい、いますぐテレビをつけてっ! 大変なのよっ」
「ふあ? テレビ?」
ねぼけまなこでテレビをつけてみると。

 ……神戸の町並みが、軒並崩れ、煙をあげていた。

「……!!」
眠気なんかいっぺんに吹っ飛んだ。
「あ、あずさは?」
「連絡がつかないのよ」
姉貴の声が飛ぶ。
「……なんてこった」
あずさ……あずさはどうなった!

 午前7時。死者やけが人の情報は、入り次第お伝えします。首相官邸に対策本部が設置されました。ラジオやテレビをつけ、落ち着いて行動してください……。

 テレビから流れて来る映像も、さっきと同じものだ。何度も、なんども、同じことが繰り返される。それでも俺は、テレビを消せなかった。

「……ツー。ツー。ツー」
電話はつながらない。

 応えてくれ、あずさ……。

 午前10時。
何度もリダイヤルするも、まったくつながらない。
「ただいまおかけになった電話番号は、現在たいへん込みあっております……」
……気ばかりが焦る。

 テレビから次第に情報が入る。
「死者、行方不明者は、現在のところ少数にとどまる見込みで……」

 午前11時。
「……そうだ」
何かのときに控えていた、あずさの実家の電話番号を回す。
「……ぷるるる」
かかった。
「……はい、瀬名です」
お母様の声だ。
「もしもし、俺、若葉といいますが」
「あ……若葉さん」
「あの、あずさお嬢様は」
「……あずさには、まだ連絡が取れていません。あした、行ってみようと思いますが、現地に入れるかどうかもわからない様子で……」
「そうですか……」
……俺も、なんとしても行きたい。
「若葉さん、何かありましたら、私どものほうからも連絡いたしますので」
「そうですか、助かります……」
心労は察してあまりある。その中から、俺のことを気づかってくれる。ありがたいことだ。
「では、なにかありましたら……」
「はい」
……そうして電話は切れた。

2

 二日後。
俺は学校をサボって、神戸にきていた。

 テレビで言っていた「被害は小さい」という意味を、ようやく俺は理解した。それはすなはち、『取材できる範囲での被害は確かに小さい』ということであって、それ以上は報道しようにも情報収集できないということなのだ。道路も、鉄道も、水道もガスも電気も電話も、あらゆるものがずたずたにされていた。それは目に見えるものだけじゃない、隣人や親戚とのつながり、あるいは地域社会と行政とのつながり、そういった人と人のつながりのようなものまでが、寸断されていた。
あるのは瓦礫の山と、殺閥とした空気、伝染病の危険だけ。緊急にできた炊きだし部隊や、テント張りの手伝いをしながら俺は、暇があれば名簿を繰った。生存者名簿に名前が残っていることを、祈りながら。

 俺の知る限りでさえ、確実に死者の数は増えていた。その数、六千人とも聞いた。そのほとんどが、火災によりやられたとも聞いた。
「熱かったろうな……」
熱で焼け焦げた遺体が、安置所に運び込まれるたびに、俺は両手を合わせた。

 瓦礫のあちこちから、まだ煙がくすぶっている。その瓦礫の奥底に、まだ多数の生存者がいるはずだが、自衛隊の救助も入らない、重機も入れられない状態で、自営消防団の手作業での救助作業がつづく。時がたつほど、それは焦りに変わる。

 ……あずさ、どこだ。どこにいるんだ。

 三日後。被災者名簿は、次第に厚くなっていった。安置所には、身元不明の遺体も多数ある。

 この中には……いないよな。まさか。

 炊出しを手伝う。
避難所は人であふれかえり、ささくれだっていた。
ひとりで段ボールにくるまっていたジイさんが死んだ。
赤ん坊が泣き叫ぶのに、近くの若い主婦がわめくように『うるさい!』とどなる。
凍てつくような目線が、俺たちよそ者につき刺さる。
ここには、プライバシーもなにもありゃしない。
「……」
俺は黙って働いていた。
……この人たちに、罪はないはずだよな。なあ。

「若葉君」
現地スタッフのリーダーに、俺は呼び止められた。
「はい」
「……瀬名さんとおっしゃる方が、君を探しているそうだ」
瀬名さん……。
「はい、わかりました」
「すぐ行ってくれていいから。緊急みたいだし」
「すみません」
俺は駆け出していた。……あずさ。無事だったのか。

「こっちです、若葉くん」
そこにいたのは、あずさの両親だった。
「あ、どうも」
「……あずさが見つかりました」
「え! あ、あずさが」
俺は驚いた。わざわざ、知らせてくださったのか……。
「……」
しかし、ご両親の表情はかたいままだ。
「行きましょう、こちらです」
「はい……」
……俺は、背中に冷たいものが走るのを感じていた。

 ご両親は体育館の中へ入っていった。ここは……たしか……
「こちらです」
ご両親の指先は、ひとつのお棺をさしていた。
「あ……あ……ず……」
その中には、見間違えるはずのない顔があった。だが、その顔の半分は黒く焼け焦げていて、俺が近付いても、その顔に触れても、髪をなでても、ゆさぶっても、何も言わなかった。
……冬の空気にさらされつづけたその顔が、冷たい。

「あ……あ……あああ……うわああああっ!!」
俺は泣いた。
人目も憚らず。
「あずさぁ、あずさぁっ!」
なんでだ、なんでだよ!こんないいやつが、なんで死ななきゃならないんだよ!……いくら泣き叫んでみても、あずさは何も答えなかった。

 どれくらい泣いていたのだろう。ふと我に帰ると、ご両親はまだ、俺と一緒にいてくれた。
「あ……すみません……取り乱してしまって」
「いえ……あずさのために、それだけ泣いてくださるのでしたら」
お父様がおっしゃる。
「俺……何もできませんでした」
俺がもし……あのとき……あずさを止めていたら。そう思うと、俺はまた泣きたくなる。
「いいえ若葉くん。あの子はあの子なりに、幸せだったと思いますよ」
お父様がかぶりを振る。
「瀬名さん……」
「『幸仁がいるから、がんばれるんだよ』って、いつも言ってましたから」
お父様はそうおっしゃると、うなづいて見せた。
「……ありがとうございます」
俺は頭を下げた。
「いえ……お礼を言うのは、わたしたちのほうです。これまであずさを支えてくださって、本当にありがとうございました……」

 あずさ……俺がおまえの心の支えだったように、おまえも俺の心の支え、だったんだよ。

3

 俺はしばらく、ボランティアとして働いた。半分抜け殻のようだった俺を、リーダーは叱咤激励してくれた。
「このまま放置したんじゃ、もっとたくさんの人が、寒さや、飢え、孤独で死んでしまう」
「それじゃ、せっかく助かったのに、なんにもならない。今生きている人を助けなきゃ、町の復興もできない。だから僕は、ボランティアとして働いているんだ」
「君にもしっかり働いて欲しい……それが、亡くなった方への供養にもなると思うんだ」
リーダーのその言葉が、俺の勇気になった。

 東京へ帰ると、久しぶりの学生寮は、人でごった返していた。
「お、若葉。おかえり」
こっちでの友人が、声をかけてくれる。
「どうだ……その、神戸の状況は」
「正直言えば、ぼろぼろだ」
俺は包み隠さず話した。
「建物も、ライフラインも、人のつながりも……みんなバラバラだ」
「そりゃあひでえな……東京では、情報が少なすぎて」
「そうなのか」
「ああ。全然報道されてない。死者の数さえも、わからないらしい」
「……」
……理不尽な怒りがわいていた。

「くそっ!」
俺は、自分の部屋へ帰ると、壁を殴りつけた。
「あああ、くそっ、くそっ、くそーっ!」
拳が切れて血がにじんでいたが、関係なかった。
自分を押さえることなんか、できはしなかった。
「なんでだ、なんでだよぉっ!」
あずさが死に、死ななくていい人がたくさん死んだのに……、なんでみんな黙ってるんだよっ!

 やりきれない思いだけが積もっていた。

「若葉っ!」
誰かが俺を後ろから羽交締めにする。
「やめろ若葉、血が出てるぞっ!」
必死に振りほどこうとする。
「ぐあああっ!」
「……悔しいのはお前だけじゃない、お前だけじゃないんだっ!」
肘鉄を食らいながらも、その誰かは俺を放さない。
「くっそおおっ!」
「やめろ若葉ぁっ!」
とうとうそいつは、俺の脳天をぶんなぐった。
「くぁっ……!」
「……どんなに後悔しても、あの子は帰って来ない」
俺が意識を失う前に、誰かがつぶやいた。

 ……さらに数日後。
「若葉君、手紙が来てるよ」
寮長から、一通の封書を渡された。
「あ、どもっす」

 差出人は、瀬名。
「……あずさのご両親か」
中身は、あずさの葬式が済んだことと、そして、一枚の写真だった。
「……」
あずさの写真。
何よりも大切な、何よりも愛したあの微笑み。
永遠に失われてしまった、柔らかな微笑み。……手紙には、大切にしてくださいと書いてあったが、俺は、この写真をどうするか、決めかねた。

 俺は、錆びたギターを、久しぶりに取り出した。そして、いつものメロディをつま弾いてみた。

 ……弦が切れた。

 俺はギターと写真を持って、庭にでると、ギターを地面に叩き付けた。何度も、なんども。乾いた音を立てて、ギターのネックが折れる。ボディが割れる。次第に、それは形を失ってゆく。

 もう要らない。こいつの伴奏で歌ってくれる人は、もういないのだから。

 やがてギターだったものは、粉々に砕けた。俺はそれを、焼却炉に入れ、火をつけた。
……ごうごうと燃える、ギターだった木片。

 俺は写真を見つめた。そして、ためらいなくそれを、火の中に放りこんだ。すぐに火がまわり、写真はゆがみ、そして燃え尽きた。……あいつの想い出とともに。

「……さよなら、あずさ」
俺は、焼却炉から立ちのぼる煙の行方を見ながら、つぶやいた。
「本当のお別れだな……」

 煙が立ちのぼる。
やがてそれは、空中に広がり、かき消えてゆく。
あずさの思い出と一緒に。

 ……さよなら、あずさ。

あとがき

 いかがでしたでしょうか。

 筆者自身、「なんでこうなるんだようっ」と叫びながら、最終章書いてます。なんでこうなるんですか。だれか教えてください。私は、わたしは、猛烈に悲しいですっ。……筆者にも原因不明の事態てのはあるものなのですが、これほどひどいのは(私自身には)初で。
「どーゆーこっちゃねん!」なツッコミはいくらでもお受けしますが、
「なんでこーなんねん!」というツッコミは答えようがありません。

 はあ、力不足なのかなあ。では、次回もしありましたら、またお会いしましょう。