お兄ちゃんのコート

さく: ねこぽん

「おにーちゃーん。起きてよー」
いつものように、お兄ちゃんを起こす。お兄ちゃんはとっても寝坊助だから、そう簡単には起きてくれない。
「うーい……くー」
「二度寝はダメだよ、そんな時間ないんだから」
フライパンから手が放せないから、どうなってるかわからないけど、お兄ちゃんはなかなか起きてこない。
『雪絵がぎゅーしてくれたら起きる』なんて、ときどき冗談まじりに言うけど、そんなことできないよね。

「おあよー」
あ。お兄ちゃんが起きてきた。まだ眠そうだね。
「お兄ちゃん、おはよっ」
「あー……くー」
「立ったまま寝ないでよーっ」
もう、こういうところだけは器用なんだから。
「ごはんできてるから。食べてねっ」
「お、もうできてるのか。雪絵はえらいなぁ」
お兄ちゃんがそういって笑う。
「もー、そんなこと言ってごまかそうったって、ダメだからね」
……でも、その笑顔を見たくて、毎日、朝ごはん作ってる。

「ごちそうさま」
お兄ちゃんが箸をおく。わたしは食器を片づける。
「……雪絵、いま何時?」
お兄ちゃんがわたしに聞く。台所の上の時計を見ながら答える。
「えーと……7時22分」
「わっ、やべ!」
お兄ちゃんが急に慌てだした。
「ど、どうしたのお兄ちゃん」
「うん、実はちょっと約束があって。今日は早めに行かないといけなかったんだ」
えーっ。言ってくれれば、もっと早く起こしてあげたのに。
「お、お兄ちゃん、そういうことは早めに言ってよ」
お兄ちゃんはばつが悪そうに頭をかいて、
「俺は着替えてくるから、悪いけど、コート出してくれる?」
と、部屋へ戻っていった。
「うん、わかった」
洗い物の片づけもそこそこに、わたしは廊下の奥にある、クローゼットへ向かう。

 ……お兄ちゃんのコート。真っ黒なコート。
何が入っているのか、いつも重たいけど、とっても暖かい。
「……お兄ちゃん」
コートさん、コートさん。今日もお兄ちゃんのこと、よろしくお願いします。……そう思ったら、わたし、コートをぎゅっと抱きしめてた。

「おーい、雪絵ぇ」
向こうからお兄ちゃんが呼ぶ。
「コート、コート」
「あぁっ、ごめんお兄ちゃん。すぐ持っていくからぁ」
わたしはぱたぱたと廊下の向こうのお兄ちゃんのところへ駆け寄った。
「はいっ、お兄ちゃん」
そうして、すぽっとお兄ちゃんの背中にコートをかけた。
「お、ありがとな雪絵」
「うん」
お兄ちゃんの広い背中に、コートがよく似合ってる。とんとん、と靴を履いて、扉を開けて。いつもの笑顔で、お兄ちゃんは行ってしまう。
「……あっ」
背中に赤いものが……あれってもしかして!
「じゃ、行ってくるよ」
「ちょ、ちょっと……」
ぱたむ。

 あー……行っちゃった……。

あとがき

 えーと。某さんとその妹さん、どーもすみません。つい。