「ばっかやろーっ!!」
あんな野郎だとわかっていたら、こっちからお断りだったわ!まったく、人を何だと思ってるのよっ!
あいつってば、いつもへらへらしててさ、モテモテのくせに、他の女の子といっしょにいたって『ただの友達だよー』なんて嘘ついてさ。今日だって、『ごめん、仕事で遅くなっちゃって』なんて言ってたけど、絶対嘘よねっ。あいつ、少し顔赤かったもん。飲んだあとよ、絶対。それも女の子と。
それでさ。なんかすまなそーな顔してるから、あたしが心配して聞いてみれば。なんてこと言うと思う?『お見合い』だって! お見合い!あたしの立場はどうなるのよ? ずーっといっしょにいたあたしはなんだったのよ? ええ、答えなさいよ!
あんな優柔不断男にだれがついてくってのよ! あんな男だったら、こっちからお断りよ。仕事がらみだって関係ないよ、なんで彼女持ちがお見合いしなきゃいけないのよ、理不尽よ! それを断れないあいつもあいつよぉっ!あいつの両親だって全然わかってないじゃない、あいつを一番知ってるのは、このあたしなんだからね! あいつの好きな歌、あいつの好きな食べ物、服、着メロ……
許せないよ! あいつのなにもかもが!もういや、あいつとは絶交! すっぱりわかれてやる! ……って言ったら、あいつ、
「……そう。じゃ、さよなら」
だって! もう、これっぽっちもあとくされなくだよ? なんでなんで、こういうときだけあの優柔不断がすっぱりなのよ? 未練の一つも見せないなんて、あたしってあんたのなんだったの?まったく全然わからないよ!
そんなことひとりで言いながら、ハンドバッグをベッドに投げて、ふと鏡を見てみた。
「……うわっ」
……あたし、こんなヒドい顔できたんだ。あたしのいやなところ、汚いところ、醜いところが全部出ちゃってた。
「ヒドい……」
こら、あたし。ちょっと男にフラれたくらいで、こんなひどい顔しなくたっていいじゃないか? オトコなんて他にいっぱいいるんだぞ?
……でも、あいつは。あいつだけは、この世にたったひとり。あいつのやさしい眼差し。あいつとみた夢。夜風に吹かれながら、あいつと語った、あの夢。ラジオから流れてくる、あのメロディ。
ぽろ。
「……あ、あれ?」
悲しくなんかないはずなのに。あいつにフラれたくらいで、泣くことなんかないって思ってたのに。……でも、ずっと好きだった。それは嘘じゃない。
ちょっとだけ、泣いてみた。
「ぐすっ……」
そしたら、涙が、あとから、あとから、止まらなくなった。
あたし、あいつのこと、こんなに好きだったんだ……。
………………
それから、いっぱい泣いた。
「ぐす……けほ、けほ」
そしたら、いろいろあったはずのもやもやが、すっかりなくなってた。いろいろ言いたいことがあったはずなのに、そんなこと、もうどうでもよくなってた。
「……ふう」
ちょっと目をつぶってみる。
……あいつの顔なんか、もう浮かんでこない。
鏡を見てみたら、ちょっとだけ目が腫れてた。
「あは。ダメだなあ、あたし……」
でも、もう大丈夫だよね。Come me up!
『ぴろろりん♪』あ、ケイタイが鳴ってる。
「……もしもし? あ、うん、久しぶりー。元気してた? え、飲み会? 行くいくー! どこどこ? ……」
もうあとがきです。とてつもなく短いですが、これだけ。
イメージソースは、谷村有美さんの『がんばれブロークン・ハート』(『Hear』収録)です。そして、これをモチーフにこれを書いたきっかけは、せいるさんと SkyFox さんにいただきました。はっきりいってかなり下手だとは思いますけれど、この作品をお三方にささげたいと思います。
ではまた。